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オリーブの木の下で
G
 「さよなら。元気でね、湖子」
 青年がにっこりと笑いながらココに手を振った。

 慌ててココが振り返ったが、そこにはもう青年の姿もレンガ造りの『猫目堂』の建物も見えなかった。
 それどころか、先ほどまでの山奥の景色すらそこにはなかった。
 そこに広がっていたのは、ココの家から少し離れたところにある田んぼの風景。
 「いったいどういうこと?」
 ココが不思議そうに首を傾げていると、
 「ココっっ!!」
 いきなり力強く抱き上げられた。

 「ココ、ココ!もう、すごく心配したんだから……」
 ココの額に頬を摺り寄せながら、莉子は涙声でそう言った。
 ココは、そんな莉子の様子を呆然と見つめながら、胸の中が熱くなっていくのを感じた。
 「ごめんね。……ごめんね、莉子」
 ココも泣きながら言って、両手でしっかりと莉子にしがみついた。
  「本当に心配したんだよ。このままココと会えなかったら、どうしようって」
 情けない声でそんなことを言う莉子は、まるで小さな子供みたいに見える。
 ココは、嬉しいやら切ないやら、いろんな感情がいっぱいになって、うまく言葉が出てこない。

 そのうえ、莉子だけじゃなく、近所のお家の人や動物たち、仲良しの犬の空(そら)や獣医さんまで、みんながココのことを探してくれていたのだ。
 みんな、抱き合うココと莉子を見て、「良かったね」と言ってほほ笑んでいる。
 「みんな、ありがとう」
 ココはもうどうしていいか分からなくて、莉子にしがみついたまま大声で泣いてしまった。
 莉子は、そんなココの頭をあやすように撫でていたのだが、ふと驚いたような声を上げた。
 「ココ、これ、どうしたの?」
 「えっ?」

 莉子が差し出したものを見て、ココは目をまん丸に見開いた。莉子の手に握られていたのは、ひとひらの真っ白な羽だった。
 「あなたの首に巻かれているリボンに挟んであったの。ねえ、いったいどこでこれを手に入れたの?」
 「分かんない。私、こんな羽知らないよ」
 ココは戸惑いながら首を振る。


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あきゅろす。
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