オリーブの木の下で
F
青年と並んで白樺林を歩くココは、何度も何度も『猫目堂』を振り返る。
「どうしたの?」
青年が不思議そうに尋ねると、
「私、またここに来られるかな?」
「……」
「今度は莉子と一緒に来たいんだけど。……ねえ、いいでしょ?」
「……」
ココの質問に、青年はこたえない。ちょっとだけ淋しげな微笑を浮かべると、いきなり空を指さした。
「ご覧」
「わあ――」
ココは声を上げて立ち止まった。
青年の指さす先に大きな虹が浮かんでいた。
「綺麗……」
「あの虹を目指していけば、かならず莉子のところへ着けるよ」
青年の言葉に、ココは驚いて青年を見つめた。
「一緒に行ってくれないの?」
すがるように青年の足元にとびついたココに、青年は悲しそうに首を振った。
「ごめんね。僕は一緒には行けないんだよ」
「どうして?」
ココが訊くと、青年はとても困ったように、そして少しだけ哀しそうに微笑った。
それから青年はココの体を持ち上げて、ぎゅっと抱き締めた。
「さあ、もうお行き。あの虹の向こうに莉子がいるよ」
「え?あの……」
「ほら。君を呼ぶ声が聞こえてくるだろう?莉子は、ずっと必死になって君のことを探しているよ」
青年の言葉にココが大きな耳をピンと立てると、確かに、莉子がココの名前を呼んでいた。
「ココー。どこにいったの?ココーー」
「あっ――」
ココは思わず身を乗り出すと、大きな声で叫んだ。
「莉子、ここにいるよ。今すぐ帰るからね!」
言うなり、ココは青年の腕の中から飛び出して、虹に向かって勢いよくジャンプした。
「莉子ーーっ!」
ココの体が空中に大きく弧を描いた瞬間――。
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