オリーブの木の下で
B
「………」
自分の体を包むやわらかなぬくもりに、猫はぼんやりと薄目を開けた。
すぐに目に入ってきたのは、白いエプロンと大きな手のひら。
先ほどまでの寒さが嘘のように、猫はあたたかな部屋で、誰かの膝に抱っこされていた。
「莉子?」
猫が思わず飼い主の名前を呼ぶと、
「気がついたかい?」
綺麗な琥珀色の瞳が猫の顔を覗き込んだ。
(誰――?)
自分を抱っこしているのが知らない人間だと分かって、猫はとっさに体を硬くした。警戒心を丸出しにしてしげしげと相手を観察する。
そんな猫の態度に、黒髪の青年はくすりと苦笑する。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、湖子(ココ)」
「え――?」
青年の口から出た言葉に、猫は驚いて毛を逆立てる。
「どうして、私の名前を知ってるの?」
思わず猫が尋ねると、
「君のことなら何でも知っているよ」
青年はそう言っておだやかに笑った。
そこで、猫――ココはまた一つ妙なことに気がついた。
それを確かめるために、もう一度その青年に尋ねた。
「ねえ。あなた、私が言ってることがわかるの?」
ココの疑問に、青年は笑顔のまま答える。
「うん。ちゃんと分かるよ」
「どうして?」
「どうして、って……」
青年は困ったように首を傾げる。
そんな青年に、ココはさらに問いかける。
「だって、あなた人間でしょ?なんで猫の言葉が分かるの?」
「……」
「おかしいよ。私と話が出来るのは、莉子だけのはずなのに」
ココが言うと、青年はますます困ったように眉を下げた。
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