オリーブの木の下で
G
「――湖子、起きて。湖子」
「う、うーん。まぶしいよぅ」
あたたかな手に体を揺さぶられて、私はうっすらと目を開けた。
「……莉子?どうしたの?」
会社から帰ってきたらしい莉子に、ぼんやりとしたままそう尋ねると、
「どうしたの、じゃないわよ。こんなところで寝込んじゃって」
莉子は心配そうに私の頭を撫でた。
キョロキョロとあたりを見回すと、そこはお庭に面した大きな窓の側だった。私、窓ガラスに寄りかかって熟睡していたみたい。
「こんな天気の中、よく窓際なんかで寝てたね。暑くなかった?頭痛くない?」
「え?」
莉子にそう言われてはじめて気付いた。
外では、雲ひとつない空が、うっすらと茜色に染まりかかっている。
「晴れたんだ?!」
私は飛び起きて窓ガラスにへばりついた。
それを見て、莉子が鍵を開けて網戸にしてくれた。涼やかな風がさっと吹き込んでくる。
「気持ちいーい」
緑の風がさわさわとひげを撫でていく。
山の向こうでは、太陽が柔らかな光を放ちながら沈んでいくのが見える。
「午前中は、今にも雨が降りそうな感じだったんだけどね。午後になって急に晴れたんだよ」
「へぇ……」
「晴れて良かったね。これで、お星さまに願い事が届くね」
「うん!」
上機嫌でそう答えながら、ふと、私の脳裏に何かがひっかかった。
――ココ、元気でね。また来年ね。
「そうだ!あの子たちは?」
私は慌てて七夕飾りの下を見た。けれど、そこにはもう誰もいなかった。
「あの子たち?誰か遊びに来てたの?」
莉子が訊く。
けれど私は答えず、ただじっと七夕飾りを見つめていた。
ひょっとして、あれはただの夢だったの?
でも……。
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