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オリーブの木の下で
E

 「……」
 ぴくっ、ぴくっ。
 かすかな話し声に、私の耳が反応する。
 まだ半分は夢の世界の住人のまま、それでも私の両耳はしっかりと誰かの話す声を捉えていた。
 家の中じゃない。窓の外、お庭の真ん中あたりから、何人かのひそひそ声が聞こえてくる。間違いない。
 「……だれ?」
 私は顔を上げて、猫ベッドの中から外の様子をうかがった。
 ここからじゃよく見えないけれど、私と莉子が作った七夕飾りの下で、何かがもぞもぞ動いているのが見える。それも一匹じゃない。
 「いったい誰なの?勝手にひとのお庭に入ってきて失礼ね」
 私は少し不機嫌になりながら、お庭をよく見渡せる窓辺へと近付いた。

 「あっ」
 私は驚いて声を上げた。
 七夕飾りの下にいたのは四匹の仔猫だった。
 ちょうど私と同じくらい、生後三、四か月というところだろうか。
 白地に黒トラのぶち模様の猫が二匹と真っ白な毛色の仔猫が一匹、それから茶トラの仔猫が一匹。みんなで七夕飾りを取り囲むようにして芝生に腰を下ろしている。
 私は息を潜めて、じっと四匹の会話に耳を澄ました。

 「いっぱい願い事が書いてあるね」
 白地に黒ブチ・その一が言う。
 「ずいぶん一生懸命つくったんだね」
 感心したようにそう言うのは真っ白い仔猫。
 「あいつ、食べ物のことばっかり書いてるな」
 白地に黒ブチ・その二が呆れたようにため息をつくと、
 「あら。ここに『ママのような素敵な美猫に』なんて書いてある。うふふ」
 茶トラの仔猫が笑う。どうやらこの子だけ女の子らしい。

 四匹はしばらくの間、うろうろと歩き回りながら七夕飾りを見上げていたが、ふと全員が同時に動きを止めた。
 「ねえ、ここを見て」
 茶トラ猫が片手を軽く上げて、一枚の短冊を指し示す。みんなの視線は一気にそこに集中した。
 (あ、あれは――)
 一枚だけある淡いピンク色の短冊。そこには、私が莉子に頼んでこう書いてもらったのだ。

 『お星さまになった兄弟たちが元気でいますように〈ココ〉』



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あきゅろす。
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