オリーブの木の下で B 「猫は猫だよ。お星さまになんかなれないよ」 私が言うと、 「なれるよ」 莉子はまた悲しそうに笑う。 「猫も、犬も、人間も……。みんな、いつかはお星さまになるんだよ」 「……」 莉子、それってどういう意味? じゃあ、そのうち私も莉子もお星さまになっちゃうの? 「そうだね。その時は、一緒の空に昇れるといいね。私は人間だけど、出来ることなら、湖子たちと同じ場所に行きたいと思うよ」 「?」 莉子の言うことはますます意味不明、理解不能。 でも、私にもひとつだけ分かったことがある。 私の兄弟たちは、ものすごく遠い遠い所へ行ってしまったんだね。きっと、もう二度と会えないんだね。 「……」 私はじっと空を見つめた。 夜空には、無数の小さな星たちがきらきらと瞬いていた。 それは、私が生まれて初めて迎えた夏のある日のこと。 外出から戻った莉子の手に、大きくて立派な竹が一本握られていた。 「どうしたの、それ?」 驚いて見上げる私に、莉子は誇らしそうな笑顔を浮かべる。 「すごいでしょ?裏の山から採ってきたのよ」 「うん、たしかにすごいけど……。そんなもの、いったいどうするの?」 竹を持ったまま移動する莉子の後に続きながら、私は鼻を動かしてくんくんと匂いを嗅ぐ。青い笹の葉のさわやかな匂いが気持ちいい。 「もうすぐ七夕だから、湖子のために七夕飾りをつくろうと思って」 「たなばた?何それ、おいしいの?」 ご馳走が出るなら私はなんだって大歓迎。 「嫌ね、湖子ったら。七夕は食べ物なんかじゃないわよ」 思わず昂奮してしまう私を見て、莉子はおかしそうに笑った。 「なんだ。食べ物じゃないんだ。じゃあ、私には関係ないや」 途端に興味を失った私に、莉子が慌てて言葉を足す。 「でも、とっても楽しいよ。綺麗な紙で短冊をつくって、願い事を書いて、この笹に吊るすの。そうすると、お星さまが願いを叶えてくれるんだよ」 「へえぇ、そうなんだぁ」 なるほど。それは確かに楽しいかもしれない。 [前へ][次へ] [戻る] |