オリーブの木の下で G どれくらい時間が経った頃だろうか。 診察室の扉が開いて、水沢先生がひょっこりと顔を見せた。 「終わりましたよ」 先生の言葉に、私と莉子はもう一度診察室へ入って行く。 にゃ太郎はシャンプーやら検査やらで疲れたのか、診察台の上に置かれたキャットキャリーの中でうとうとと眠っている。私は静かににゃ太郎に近づいた。 「あらら、すっかり眠り込んじゃってる」 「きっと疲れたのよ。そのまま眠らせておいてあげましょう」 莉子に言われて、私はにゃ太郎と向かい合うようにして、キャットキャリーの傍に伏せた。 「莉子さん、ちょっといいですか」 そう先生に促されて、莉子は隣の部屋へ行ってしまう。 にゃ太郎と二人きりになった私は、キャットキャリーの窓越しに、にゃ太郎の寝顔を眺めていた。すっかり綺麗になったにゃ太郎は、安心したような顔で眠っている。その寝顔を見ていると、なんだか私まで眠くなってきてしまった。 「ちょっとだけ。ちょっとだけね……」 そう言って、私は診察台の上にごろりと寝転んだ。 「ココ。起きて、ココ」 私を呼ぶ声と体を揺さぶる手の温もりに、私はうっすらと目を開けた。すると目の前に莉子の顔があって、じっと私の顔を覗き込んでいた。 (あれ……?) その莉子の表情に、私はかすかな違和感を覚える。 「さあ、もうお家へ帰ろう」 笑いながらそう言うのだが、どこか沈んでいるように見える。 「ねえ、何かあったの?」 私が訊くと、 「え?どうして?」 「だって、なんか莉子の顔、変だよ」 すると、莉子は一寸だけ顔を歪めて、私の体をぎゅっと抱き締めてきた。 「莉子?」 「何でもないよ。……何でもない」 「そう?それならいいけど」 「うん」 頷いた莉子の声が小さくかすれる。 でも、私はそれ以上何も訊かなかった。 莉子が話したくないことを無理やり聞き出そうとするほど、私は思いやりのない猫でも鈍感な猫でもない。 [前へ][次へ] [戻る] |