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オリーブの木の下で
F
 黙りこんでしまった莉子に、水沢先生は優しい口調で言う。
 「そもそも野生の生き物だった山猫を改良して家猫という種類にしてしまったことが、すでに人間の勝手なんですよね。でも、それならそれで、最後まで責任を持って面倒を見るのが、俺たち人間がせめてこの子たちに出来ることだと思いませんか?」
 「……」
 「……なんて。結局は偽善者の台詞かな」
 そう言って、水沢先生は哀しそうに笑う。そして、にゃ太郎の両手をそっと撫でた。
 そんな水沢先生に、莉子は真剣な瞳を向ける。
 「にゃ太郎君は、飼い猫だったんですね?」
 「ええ、そのようですね」
 水沢先生が頷くと、莉子は複雑な表情を浮かべた。

 水沢先生は、そんな莉子を見ると、わざと明るい声で莉子に言った。
 「さて、額と前足の傷の手当ても済みましたし、にゃ太郎君の毛皮を綺麗にして、ついでに簡単な検査と予防接種もしておきますか?」
 「あ、はい。お願いします」
 莉子が慌てて頷くと、
 「ちなみに、シャンプー代と予防接種はサービスします」
 「え?」
 「莉子さんとココちゃんには、いつもご贔屓にしてもらってますからね」
 「でも――」
 「それに、俺の運命の相手を見つけてくれましたし」
 そう言って、水沢先生は隣の部屋にちらっと視線を向けた。窓ガラスの向こうで、不細工なロットワイラーの仔犬の空(そら)がソファに寝そべり、のんびりと大きな欠伸をしている。

 水嫌いなにゃ太郎のために『水のいらないシャンプー』というのを使って、先生と莉子は根気よくにゃ太郎の毛皮の汚れを落とした。
 すっかり綺麗になったにゃ太郎は、さっきとはまるで別猫のようにハンサムだった。
 「じゃ、検査と予防接種をしますから、莉子さんとココちゃんは待合室で待っていてください」
 水沢先生に言われて、私たちは大人しく待合室の椅子に座った。
 「にゃ太郎君、すごい美猫だったんだね」
 莉子の言葉に、
 「うん。びっくりしちゃった」
 私も素直に頷いた。
 莉子の膝の上に抱っこされて、にゃ太郎と水沢先生が出てくるのを待っていたのだが、二人はなかなか戻ってこなかった。そのうちに、私はぐっすり眠り込んでしまった。


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あきゅろす。
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