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オリーブの木の下で
G
 私は莉子の手から逃れると、先生の膝の上に飛び乗った。
 「先生、この子じゃ駄目なの?この子じゃ、先生の『運命の相手』にはなれないの?」
 「いったいどうしたんだい、ココちゃん?」
 いきなり膝の上でニャーニャー喚きはじめた私を、先生は驚いて見つめている。
 そうだ。先生には私の言葉は通じないんだった。

 私は、まだ俯いたまま泣いている莉子を振り返り、慌てて言った。
 「莉子、私の言葉を先生に通訳してよ」
 「え、でも――」
 「いいから、早く」
 私の剣幕に気圧されるようにして、莉子がおずおずと先生に話し出す。
 「あの、先生が探している『運命の相手』って、この子じゃ駄目なんですか?」
 「えっ――?」
 いきなりそんなことを言い出した莉子を、先生はぎょっとしたように見つめる。でも莉子は気にせずに話し続けた。
 「先生、いつも言っているそうですね。『運命の相手』だって思えるコに会えるのを待っている、って」
 「どうして莉子さんがそんなことを知っているんですか?」
 先生はしきりに首をひねっている。

 ええい。今はそんなことを議論している場合じゃないのよ!
 私は先生の顎を猫パンチで軽くべしっと叩いた。驚いて目を見張る先生に、莉子が取り繕うように慌ててまた話し出す。
 「出会った瞬間に感じるものだけが運命とは限らないと思います。一緒に過ごして、一緒に笑ったり泣いたりして、そこからだんだんと生まれるものもあるんじゃないでしょうか?」
 「……」
 先生は黙っている。たぶんどう答えたらいいのか分からないのだろう。

 莉子と私はそんな先生をじっと見つめている。高明お兄さんは、はらはらしながら先生と莉子を見ている。
 先生は、莉子を見て、次に私を見て、そしてもう一度視線を莉子に戻した。
  「まいったな」
 つぶやいて、先生は微笑った。
 それからそっと手を伸ばして、莉子の膝から仔犬を抱き上げた。
 私は慌てて先生の膝から莉子の膝の上へ飛び移る。
 先生はしばらく仔犬の顔をじっと見つめていた。仔犬のほうでも、澄み切った丸い瞳で先生を見つめている。


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