[携帯モード] [URL送信]

オリーブの木の下で
F
 莉子は、今にも泣きそうな顔で、腕の中の仔犬をしっかりと抱き締めた。
 私は、先生の話している内容はよく分からなかったけれど、先生の表情や莉子の様子から、なんだかとても深刻な話をしているんだということは理解できた。
 要するに、この子は捨てられたんだ―――。

 「先生」
 しばらくして、莉子が重い口を開いた。
 先生はぼんやりと莉子のほうを見つめると、ぎこちなくほほ笑んで見せた。
 「なんですか?」
 「先生は、この子を処分なさるおつもりなんですか?」
 「……」
 莉子の直球な質問に、先生はすぐには答えられない。
 黙ったまま手を伸ばして、莉子の膝の上から無邪気に見上げてくる仔犬の頭を撫でた。
 「……仕事ですから」
 「――」
 莉子はさっと表情を強ばらせると、息を呑んで先生を見つめた。
 先生は悲しそうに眉尻を下げながら、ひたすら仔犬の頭を撫でている。

 「ねえ、莉子」
 私は莉子の膝に前足をかけて、そっと莉子に話しかけた。
 「この子、どうなるの?捨て犬にされちゃうの?」
 「ココ」
 莉子が辛そうに顔を歪めながら、私をじっと見下ろす。そんな莉子に、私は必死で訴えた。
 「どうして?だって、この子にはちゃんと飼い主さんがいるんでしょ?なんで飼い主さんはこの子を捨てるの?」
 「ココ……」
 「ねえ、なんでそんな簡単に捨てられるの?飼い主さんにとって、この子は何なの?人間にとって、犬や猫って何なの?」
 「ココ――」

 莉子は手を伸ばして私を抱き上げた。
 そのまま片手で仔犬を抱っこして、もう片方の手で私を抱っこして、私たちの上に覆いかぶさってきた。莉子の目からこぼれた透明な雫が、私と仔犬のおでこに一粒、二粒……と落ちてくる。
 泣いている莉子を見て、私の心は決まった。


[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!