オリーブの木の下で
F
莉子は、今にも泣きそうな顔で、腕の中の仔犬をしっかりと抱き締めた。
私は、先生の話している内容はよく分からなかったけれど、先生の表情や莉子の様子から、なんだかとても深刻な話をしているんだということは理解できた。
要するに、この子は捨てられたんだ―――。
「先生」
しばらくして、莉子が重い口を開いた。
先生はぼんやりと莉子のほうを見つめると、ぎこちなくほほ笑んで見せた。
「なんですか?」
「先生は、この子を処分なさるおつもりなんですか?」
「……」
莉子の直球な質問に、先生はすぐには答えられない。
黙ったまま手を伸ばして、莉子の膝の上から無邪気に見上げてくる仔犬の頭を撫でた。
「……仕事ですから」
「――」
莉子はさっと表情を強ばらせると、息を呑んで先生を見つめた。
先生は悲しそうに眉尻を下げながら、ひたすら仔犬の頭を撫でている。
「ねえ、莉子」
私は莉子の膝に前足をかけて、そっと莉子に話しかけた。
「この子、どうなるの?捨て犬にされちゃうの?」
「ココ」
莉子が辛そうに顔を歪めながら、私をじっと見下ろす。そんな莉子に、私は必死で訴えた。
「どうして?だって、この子にはちゃんと飼い主さんがいるんでしょ?なんで飼い主さんはこの子を捨てるの?」
「ココ……」
「ねえ、なんでそんな簡単に捨てられるの?飼い主さんにとって、この子は何なの?人間にとって、犬や猫って何なの?」
「ココ――」
莉子は手を伸ばして私を抱き上げた。
そのまま片手で仔犬を抱っこして、もう片方の手で私を抱っこして、私たちの上に覆いかぶさってきた。莉子の目からこぼれた透明な雫が、私と仔犬のおでこに一粒、二粒……と落ちてくる。
泣いている莉子を見て、私の心は決まった。
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