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オリーブの木の下で
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 「ロットワイラーなんて、よくご存知ですね」
 いつもの温和な笑顔を取り戻した先生が、感心したように莉子に言う。
 莉子はそんな先生を振り返りもせず、
 「お友達に、とても犬好きな子がいるんです。彼女からいろいろな犬種を教えてもらってますから」
 明るい声でこたえる。
 莉子にとっては、人間の男性よりも不細工な仔犬のほうが魅力的なわけね。
 やっぱり一番の変わり者は莉子かも知れない。

 「どうしたんですか、この子?先生のお宅の子ですか?」
 相変わらず仔犬のほうを向きながら莉子が尋ねると、先生は少しだけ眉をひそめた。
 「いや、そうじゃないんですが……」
 先生の歯切れの悪さに、莉子が不審そうに先生を振り仰ぐ。
 その莉子の手の中で、仔犬は無邪気に舌を出してしっぽ…というかお尻を振り続けている。
 「……」
 そんな仔犬の様子に、先生は眉間の皺を一層深くする。

 「この子はね、ある飼い主さんから預かった子なんです」
 莉子に促されてガーデンチェアに座り、お茶を一口飲んでから、先生はため息まじりにそう話し出した。
 「三日前にペットショップで購入したそうなんですが、飽きてしまったから処分してくれと言うんですよ」
 「え――?」
 途端に莉子と高明お兄さんの顔が強ばる。
 先生はかまわずに話を続けた。
 「ペットショップで見たときは、可愛いし変わってていいなと思ったそうなんですが、実際に連れて帰ったら、ご飯やトイレの世話なんかが大変なので、それで嫌になってしまったそうです」
 「……」

 二人は無言で先生の話を聞いている。
 けれど膝の上に乗せた仔犬を抱く莉子の手が、かすかにぎゅっと握り締められたのを私は見た。
 「それで、『もう要らないから、処分して欲しい』と、今朝いきなり私のところへ連れてきたんです」
 先生はそう言って、大きなため息を吐き出した。


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あきゅろす。
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