オリーブの木の下で
C
私がその仔犬と出会ったのは、ある土曜日の午後のことだった。
庭でお茶を飲んでいる莉子、その横でお昼寝する私(もちろんお散歩ひも付き)。陽射しはあたたかく、風は穏やかで、まさに絶好のお昼寝日和。
それなのに、
「莉子さあ〜ん」
能天気な低音に、せっかくのお昼寝を邪魔されてしまった。
相手は言わずもがなの高明お兄さん。両腕にフェレットの桃太郎と金太郎を抱っこして、当たり前のように門を開けて我が家の庭に侵入してくる。
私は鼻からふうっと一つ大きく息を吐き出すと、興味なさそうにそっぽを向いて、また眠りにつこうとした。
けれどそんな私の目の前に、高明お兄さんが、桃太郎と金太郎をちょこんと下ろす。
「ココちゃん、こんにちは〜」
「……」
フェレットを使って腹話術しないでくれる?
桃太郎、金太郎、あんたたちもされるがままになってるんじゃないわよ。
「…ンニャ(あほ)」
私がつぶやくと、莉子がくすりと吹き出した。
「はいはい、ココちゃんは良い子ね。ちゃんとお返事してくれるんだもん」
いや、違うんだけどなあ。高明お兄さんって、本当にポジティブな人だよね。
「ゥニャオン(お馬鹿さん)」
しかめ面をした私を見て、莉子は笑いをかみ殺す。
高明お兄さんは、そのまま何の断りもなく莉子の向かい側のガーデンチェアに腰をおろす。すかさず莉子が、
「お茶どうですか?」
尋ねると、待ってましたと言わんばかりに首をぶんぶんと縦に振る。
まあ、高明お兄さんの気持ちも分からないではないんだよね。
この住宅街の人は、ほとんどが初対面のときに高明お兄さんの言葉遣いに驚いて、それ以降はあまりお近づきにならないようにしているようだし。
それに、莉子の淹れる紅茶だのコーヒーだのは、ちょっとした喫茶店並みに美味しいらしいから。
「莉子さん、勿体ないわー。自分で喫茶店でもやればいいのに」
本日のお茶であるシナモンミルクティーをすすりながら、感心したように高明お兄さんが言う。
莉子はにっこりと笑って首を傾げるだけだった。
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