オリーブの木の下で
B
最後に紹介するのは、動物病院の先生。
先生はまだとても若くて、白衣と銀縁眼鏡の良く似合う優しい男の人。名前は水沢晴史(みずさわはるひと)さん。
先生のお家には、アビシニアンという種類の雌猫がいるんだけど、この子は先生の飼い猫ではないんだって。先生のお友達が放浪癖のある人なんで、よく先生があずかってあげるのだと言っていた。
彼女の名前はリデル。私より少し年上のお姉さん猫で、とても綺麗で優しくて、私はひそかにこのリデルに憧れている。
「そう、ココは遠い街からやって来たの。今は山の中に暮らしているのですって?素敵ね」
そう言って優雅に笑うリデル。そのしぐさの一つ一つに品があって、私はそんなリデルが羨ましい。
けれど、リデルのほうでは私のことが羨ましいのだと言う。どうしてかと理由を尋ねたら、
「いつも飼い主の莉子さんと一緒にいられるじゃない。緑に囲まれたお家で、大好きな人がそばにいてくれて、そのうえあんなに愛されて。それってとても幸せなことよ」
くすりと微笑むリデルはどこか淋しそう。
リデルの飼い主さんって、一体どんな人なんだろう?こんな素敵なリデルを放っておくなんて、絶対に神経がどうかしてる。
いっそのこと、リデルは水沢先生のお家の猫になっちゃえばいいのに。
「それは駄目」
「どうして?」
「どんな飼い主でも、私にとっては彼が一番なのよ。それに、先生だって、彼から私を譲りうける気なんてないの」
「なんで?先生って猫が嫌いなの?」
私が尋ねると、リデルは一寸だけ呆れたような苦笑を浮かべた。
「いいえ、そうじゃなくてね。先生は『運命の相手』と出会うのを待っているのですって」
「運命の相手?」
「そう。なんでも、出会った瞬間にビビッとくるらしいわ。先生はそういうコに出会えるのをずっと待っているのよ」
リデルの言葉に私は首をひねった。
『運命の相手』ねぇ……。
人間の女の人ならまだしも、動物との間にそんなものあるのかしら?
しかも「ビビッとくる」だなんて、静電気でも起きるっていうの?そんな痛いこと嫌だな、私だったら絶対にお断り。
やっぱり、水沢先生も相当の変わり者だよね。
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