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オリーブの木の下で
B
 莉子が私を溺愛するのは何故なんだろう。
 ときどき私は考える。
 莉子がかなりの動物好きであることは、金太郎や桃太郎からも聞いているから知っている。家の前をお散歩中の犬が通りかかると、飼い主そっちのけで犬に話しかけている姿もよく見かける。
 それどころか庭に寄ってくる雀やカナヘビにまで名前をつけて愛想を振りまいているのだから、莉子の動物好きはかなりのものだと思う。
 けれど、莉子はそんなに動物が大好きなのに、今まで動物と一緒に暮らしたことはなかった。だからこの家には動物の匂いがしないのだ。
 私はそれがとても不思議だった。
 いったいどうしてなんだろう。何かよほどの理由でもあるんだろうか。
 そして、さらにもっと不思議だったのは、そんな莉子がなぜ急に私と暮らす気になったのかということだ。

 その謎を解く手がかりを、私はある日偶然見つけてしまった。
 莉子の部屋にある飾り棚。その一番上の段に、一匹の猫の写真が飾ってあることに私が気づいたのは、このお家にもらわれてきてひと月近く経った頃だった。

 お昼寝から目を覚ますと莉子の姿がなかった。私が眠る前までは、ちゃんと居間のソファの上にいたのに。
 「莉子」
 呼んでみたけれど返事はない。
 顔を上げてふんふんと鼻を動かし、ひげをピンと張って気配を探ってみたけれど、どうやら居間にもキッチンにも莉子はいないらしい。ほかのお部屋やお風呂場も探してみたけれど、やっぱりどこにも見当たらない。
 私は不安になって鳴き声を上げた。
 「莉子。莉子、どこなの?」
 すると、
 「ココー」
 二階から莉子の声がする。
 「グングルン」
 私は嬉しさのあまり喉を鳴らしながら一声鳴いた。そして、急いで階段を上って行った。

 「ニャアー!」
 私が鳴きながら部屋に入っていくと、莉子は呆れたように笑った。
 「寂しかったの?ごめんね」
 そんなことを言いながら、飾り棚のガラス扉を閉めようとする。
 私は莉子の前に行くと、莉子の膝に両手をかけて、扉の取っ手に手をかけている莉子の肘にすりすりと頭をこすりつけた。
 「あ、ちょっと……ちょっと待って」
 危ないから――。
 そう言いかけた莉子の手から、何かが滑り落ちた。


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あきゅろす。
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