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猫目堂
A

 「いらっしゃいませ」
 綺麗な顔をした若い男が二人、カウンターの中から声をかけてくる。お客は初老の紳士がひとり。
 コーヒーのいい香りが漂ってきて、彼はほっと息を吐いた。カウンターに座り、コーヒーを注文しようとして、今朝から何も食べていないことに気づく。
 「ご注文は何にしますか?」
 二人の店員のうち、黒髪のほうの店員が彼に声をかける。
 彼はメニューを見ながら、
 「そうだなぁ。ブレンド・コーヒーと野菜のサンドイッチをください」
 「かしこまりました」
 黒髪の店員はにこりと笑って調理場へと消えて行った。
 「先にコーヒーをお出ししてよろしいですか?」
 もうひとりの金髪の店員が彼に尋ねてくる。
 「あ、はい」
 彼の返事を待って、手際よくコーヒーを煎れ始める。

 コーヒーとサンドイッチを待つ間、彼はさりげなく店内を観察した。
 造りは小さいがちょっと洒落た感じの店。置いてある小物もアンティークっぽいもので、売っている雑貨もみんな趣味のいいものばかり。それにどこか懐かしい感じがする。
 (なんだか不思議なお店だな…)
 店員の二人はおそらくここに住んでいるのだろう。雰囲気がとてもよく似ているが、兄弟かなにかだろうか。
 それからお客の紳士、優しくて品が良さそうな感じだ。
 紳士はいったいどうしてこんな山奥でお茶を飲んでいるのだろうか。もしかして自分と同様にバスを待っているのかもしれない。

 彼がそんなことを考えていると、紳士と金髪の店員の会話が耳に入ってきた。
 「もうだいぶこちらには慣れたようだね、ラエル」
 紳士が言うと、
 「ああ、おかげさまでね。カイトもよく働いてくれるし、不自由は感じないよ」
 金髪の青年――ラエルが笑顔で答える。
 どうやら二人は知り合いらしい。
 「こちらに君とカイトがいると聞いて、はじめはずいぶん驚いたけれどね。こうして顔を見ることが出来て嬉しいよ」
 「そうだね。しばらくはここにいるから、いつでも寄ってくれてかまわないよ」
 「そうか。いつまでこちらにいるつもりなんだね?」
 老紳士が訊くと、ラエルはあいまいに首をかしげた。
 「そうだね。とりあえずカイトの待ち人が現れるまで、かな」
 ラエルはそう言いながら、丁寧にコーヒーをカップに注いだ。

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