猫目堂 @ とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。 その扉には、こんな看板が・・・ 《喫茶・雑貨 猫目堂》 『あなたの探しているものがきっと見つかります。 どうぞお気軽にお入りください』 さあ、扉を開けて。 あなたも何か探しものはありませんか? ― 月の光のオルゴオル ― 突然バスがガタンと揺れて、彼は驚いて目を覚ました。 いつのまにか眠ってしまったらしい。ぼんやりと顔を上げると、バスの運転手が振り返ってこちらを見ていた。 「M市へ行かれる方は、こちらでお乗り換えです」 そう言われて、キョロキョロとバスの中を見回す。彼のほかに乗客はいない。 「ここで乗り換え?おかしいな。直通のバスに乗ったはずなのに……」 彼が首をひねっていると、 「このバスはここから回送になります。M市行きのバスは一時間後に来ますから」 さっさと降りてくれといわんばかりに、運転手は冷たく言い放つ。仕方ないので、彼は荷物を持つとしぶしぶバスを降りた。 走り去るバスを見送ってから、彼は呆然とあたりを見渡した。 「いったいどこなんだ、ここは?」 どう見ても山奥。 彼がいる小さなバス停のほかは家の一軒も見当たらない。 M市へ行くのにこんなところを通っただろうかと首をひねりながら、彼は時刻表を確認する。 さきほどの運転手の言葉通り、次のバスが来るまできっかり一時間。それまでここで待つなんてとても出来そうにない。いったいどうしたらいいのだろう。 途方に暮れた彼の目に、木々の合間に見え隠れする建物が見えた。 「こんな山奥に住んでいる人がいるんだろうか?」 不思議に思いながら近づいてみると、小さなレンガ造りの建物の入り口に『喫茶・雑貨 猫目堂』と書いてあった。 こんなところで商売? 彼は驚いて看板をじっと見つめた。よほどの変わり者か、やる気がないとしか思えない。 けれどこんな山奥で、一時間もバス停で立っているよりはましかも知れない。 そう考え直して、思い切って扉を開けた。 [次へ] [戻る] |