猫目堂 B 彼女はコーヒーを飲みながら、何気なくカウンターの横にあるショーケースの中に視線を走らせた。 こんなところにも雑貨が置いてあるんだ。 そんな軽い気持ちで。 「……?」 ふいに、彼女は目を見開いた。 震える手でコーヒーカップをテーブルの上へ戻すと、椅子から下り、ふらふらとショウケースに近寄った。 「これ……」 彼女はショウケースの中を食い入るように見つめている。 「なんで、これがここにあるの?」 彼女の言葉に、コーヒーを入れてくれたのとは別の店員がそっと彼女の背後に立った。 「それに、見覚えがあるんですか?」 「あるも何も、これ、私のだわ。私が昔飼ってた猫の『海斗(かいと)』につけてあげてた首輪だわ」 信じられないと言う様に、彼女は言った。そんな彼女に、店員はショウケースから首輪を取り出すとそれを手渡した。 「よく見てください。間違いありませんか?」 彼女は言われるままにそれを手に取り、しげしげと眺めた。ひっくり返して裏側まで丹念に調べる。 そして、 「間違いない。だって、ここに私の字で『かいと』って書いてあるもの。それにうちの電話番号も」 「そうですか」 店員は微笑んで、意味ありげに頷いた。 彼女は首輪を握り締めて、店員を振り返った。 その時――― 「ニャア……」 彼女の足元に一匹の猫がやってきた。 その猫を見て、彼女の顔色が変わった。 「海斗?!」 彼女は驚いてその猫を抱き上げた。猫はおとなしく彼女に抱かれると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら彼女の鼻先を舐めた。 「海斗……?本当に海斗なの?!」 彼女が尋ねると、その猫はちょっとだけ首をかしげて、 「そうだよ」 そう応えた。 普通ならあり得ない出来事に、しかし彼女は驚かなかった。驚きよりも嬉しさと懐かしさのほうが大きかったのだ。 [前へ][次へ] [戻る] |