猫目堂
A
「いらっしゃいませ」
綺麗な顔をした若い男が二人、カウンターの中から声をかけてくる。落ち着いた雰囲気の店内にはコーヒーのいい香りと清潔な空気が流れている。お客は三人ほど。
彼女はほっと安堵しながらカウンターに腰掛けた。
「何にしますか?」
店員らしき若い二人の、さらに若い方が気さくに声をかけてくる。
「あ、コーヒーを。えっと…ブラジル・サントスを一つお願いします」
「かしこまりました」
若い店員はにこりと愛想よく頷く。
コーヒーを待つ間、彼女は何気なく店内を観察した。
造りは小さいがちょっと洒落た感じの店。
置いてある小物もアンティークっぽいもので、売っている雑貨もみんな趣味のいいものばかり。それにどこか懐かしい感じがする。
さらにさりげなく視線を店内に居る人たちに走らせる。
店員の若い男二人は兄弟だろうか、二人とも実に感じが良い。
それから年配の優しそうな紳士と、インテリっぽい美人と、信じられないくらい可愛い顔をした小さな子供。なんだか不思議な取り合わせだ。
彼女に声をかけたのとは別の店員が、子供と何やら話しているのが聞こえる。
「じゃあ、あの小鳥、もうすっかりいいんだね」
店員が言うと、子供は笑いながら頷く。
「うん。あいつも今は元気に飛び回ってるよ。なんてったって特別な羽根だからね」
「そうか。それは良かった。それに、君もすっかり元気そうだ」
「おかげさまで。最近はとても真面目さ。もう二度と下界に落っことされないように気をつけるよ」
いったい何の話をしてるんだろう?
彼女は首を傾げた。
学校の話でもしてるのかな。それにしても妙な会話。
そんな風に思っていると、
「はい。どうぞ」
目の前にコーヒーが差し出された。
「ああ、どうも」
コーヒーのいい香りを吸い込みながら、ひとくち飲む。
とても美味しい。それに体が温まる。
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