猫目堂 @ とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。 その扉には、こんな看板が・・・ 《喫茶・雑貨 猫目堂》 『あなたの探しているものがきっと見つかります。 どうぞお気軽にお入りください』 さあ、扉を開けて。 あなたも何か探しものはありませんか? 『猫目堂』という一風変わった名前のお店に彼女が来たのは、本当に偶然だった。 友達の友達が飼っている猫が仔猫を生んでしまい、一匹だけでいいからどうしてももらって欲しい…そんなことを頼まれ、断ることが出来ずに今日迎えに行く事になっていた。 友達に地図を描いてもらい、バスの乗り換えをしたまではよかった。けれどその乗ったバスが、全然見当違いの方向へ走り出しても、彼女はまだ気がついていなかった。 おかしいなと思いつつ乗り続け、気がつけば終点だった。しかも来たこともないような山の中。 そのまま折り返しそのバスに乗って戻ろうと思っていたのに、 「悪いけれど、このバスは回送になるので降りてください」 運転手は素っ気なく言い、彼女を残して行ってしまった。 途方にくれた彼女は、次のバスを待とうと時刻表を見た。 まだ一時間以上もある。 困り果てて視線を漂わせると、林の向こうに建物が見えた。 「こんなところに住んでる人がいるのかしら?」 そう思いながら、興味本位で近づいてみると、小さなレンガ造りの建物の入り口に『喫茶・雑貨 猫目堂』と書いてあった。 ――こんなところで商売? 彼女は驚いて看板をじっと見つめた。よほどの変わり者か、やる気がないとしか思えない。 けれどこの冬空の下、一時間もバス停で立っているよりはましかも知れない。 そう考え直して、思い切って扉を開けた。 [次へ] [戻る] |