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猫目堂
G
 急いで涙を拭きながら、彼女は店員たちの方を振り返る。
 澄んだ琥珀色の瞳と優しげな青い瞳が、慈しむように彼女に向けられていた。
 何故だかその眼差しに覚えがあるように彼女は感じた。うんと遠い昔から知っているような、そんな気がしたのだった。
 「お父さんは、あなたが望む時、いつだってあなたの傍にいるんです」
 その言葉に、彼女は力なく首を振る。
 「でも、見ることは出来ないんでしょう?」
 彼女にはそれがとても悲しいことのように思えた。
 傍にいるのに見ることも触れることも出来ないなんて。それじゃあ、どうやって父親の存在を信じたら良いのだろうか。
 彼女は途方に暮れたような表情で二人を見つめ返した。
 「せっかくお父さんが来てくれても、私には分からないかも知れないわ。気づいてさえあげられないかも知れない。そんなの悲しすぎるわ」
 すると、黒髪の店員がゆっくりと彼女の胸の辺りを指さした。
 「だから、感じてください」
 「え?」
 「お父さんの存在を。あなたがお父さんのことを想う時、お父さんはあなたの傍に確かにいるということを。あなたの心で感じてください」
 「私の心で――?」
 「そうです。お父さんとあなたを繋ぐ確かな糸は、いつだってあなたの中にあるんですから」
 彼はゆったりと頷く。その顔はこの上なく優しく清らかだった。
 「大丈夫、きっと分かるはずですよ」

 彼女は答えなかった。
 ただ遠い彼方を見つめながら、両手をそっと自分の胸に押し当てた。
 手のひらに感じる温かさは、先ほどの父のぬくもりと同じものだった。
 口元を柔らかくほころばせると、
 「ありがとう、お父さん」
 心を込めて、彼女はそう囁いた。





《おしまい》


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あきゅろす。
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