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猫目堂
C
 「いらっしゃいませ」
 ぼんやりと立ち尽くす彼女に、優しく声がかけられる。
 カウンターの向こう側から黒い髪の青年と金色の髪の青年が彼女をじっと見つめていた。どうやらここの店員らしい。どちらもとても綺麗な顔立ちをしている。
 「あの……」
 何と言おうか迷っていると、黒い髪のほうがふわりと笑いかけてきた。
 「やっといらっしゃいましたね」
 「え?」
 突然そう言われて、彼女はびっくりして店員を見つめ返す。いぶかしげに眉をしかめ、探るような視線を店員に向けた。
 しかし黒髪の青年はちっとも気にした様子もなく、親しげに彼女に話しかけてくる。
 「あなたがやって来るのを、ずいぶん長いこと待っていたんですよ。良かった、来てくれて」
 「え?え?」
 いったい何を言っているのだろう。
 彼女はこんな店なんて一度も来たことがないし、名前すら聞いたこともない。当然のことながら、黒髪の青年のことも、その横で穏やかに微笑む金髪の青年のことも知らない。それなのに、なぜ彼は彼女のことを待っていたなんて言うのだろうか。
 「あの、失礼ですけど、どなたかと勘違いしていらっしゃいませんか?」
 おずおずと彼女が問うと、二人はきっぱりと首を振った。
 「いいえ。あなたで間違いありません」
 「あちらの方は、あなたのことをずっと待っておられたんですから」
 そう言って、二人はカウンターの一番奥の席を振り返った。
 つられたように彼女もそちらを見る。
 そして―――

 「やあ、久しぶりだね」
 そう言って彼女に笑いかける人物を見て、彼女はあっと息を呑んだ。
 「元気だったかい?」
 尋ねながら、まるで小さな子にするように彼女の頭を撫でてくる。
 その大きな手も、まるで子供のように無邪気な笑い方も、愛しさの込められた低い声も、何もかもが彼女の記憶する通りのものだった。
 「お父……さん?」
 信じられないというように、彼女は大きな目をめいっぱい見開く。

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あきゅろす。
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