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猫目堂
B
 「はい」
 彼女は素直に頷く。
 「あれ、喫茶店ですから。あそこで時間を潰すといいですよ」
 そう言って、運転手はさっさとドアを開けてしまう。
 途端に外の空気がバスの中に入り込んできた。その冷たさに首を竦めながら、仕方なしに彼女はバスのステップに足を滑らせた。
 彼女が完全にバスから降りたのを確認すると、運転手は待ってましたと言わんばかりにバスを発車させてしまった。
 小さなバス停に、彼女は一人ぽつんと残されてしまったのだ。
 風はますます冷たく強く吹き付けてくる。
 「こうなったらあそこへ行くしかないわね」
 まるで自分を勇気づけるように、はきはきとした口調でそう言うと、彼女は気を取り直して歩き出した。


 カランカラーン……
 ドアベルの澄んだ音色とともに、木製の扉がゆっくり開いていく。中から暖かな空気とコーヒーの良い香りが漂ってきた。
 (良かった。とりあえず変なお店じゃないみたい)
 彼女はほっと息を吐いた。だがそれと同時に、何故だか懐かしいような切ないような妙な気分になり、戸惑いつつ店内を見渡した。
 表の看板に『喫茶・雑貨』とあったように、さほど広くない店内にはいくつかのテーブル席とカウンター席、それに小物などが置いてあるささやかなスペースがあった。家具も、そして売られている雑貨も、全体にアンティークっぽい感じを受けるのだが、正直なところ彼女にはよく分からない。
 ただ、やはり先ほど感じた妙な感覚は消えない。
 初めてのはずなのに、ひどく懐かしいような。気を抜いたら両目からぽろりと涙がこぼれてしまいそうな。
 うまく説明が出来ない。けれど決して不快ではない。
 (ああ、そうだわ)
 この感じには覚えがあった。時々ふいに彼女の中に湧き上がってくるものと、それはとてもよく似ていた。
 そして、彼女がそういう気持ちになるのは、大抵の場合、無意識にあるものを探している時だった。
 (でも、どうして……?)
 ここには彼女の探しているものがあるはずなどないのに。

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あきゅろす。
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