猫目堂
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大切な仲間H・K様へ
あなたとお父様の
優しい想い出のために...
とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。
その扉には、こんな看板が・・・
《喫茶・雑貨 猫目堂》
『あなたの探しているものがきっと見つかります。
どうぞお気軽にお入りください』
さあ、扉を開けて。
あなたも何か探しものはありませんか?
【猫 目 堂】
《特別編》
― 君の中に ―
少しばかり汚れた窓から見える景色に視線を向けながら、彼女は小さなため息をひとつ吐き出した。
途端に窓ガラスの一角が白く染まり、外の空気がどれほど冷えているか思い知らされた。
(ああ、まったくついてないわ)
心の中で呟きながら、もう一度ため息を吐く。
冬真っ只中のこんな寒い日に遠出しなくてはならないだけでも憂鬱なのに、そこへもってきてどうやら彼女は道に迷ってしまったらしいのだ。
ちゃんと教えられた駅で降りて教えられたバスに乗ったつもりが、いつのまにか辺りはすっかり緑が深くなり、まるで見たこともない山の中。たしか彼女の目的地はデパートなどが立ち並ぶ街の中だったはずだ。
ひょっとしたらそこへ行く途中にこういう場所があるのかも知れないなどと暢気に構えていたのだが、走れども走れども一向に街は見えてこず、それどころか彼女を乗せたバスはどんどん山奥へと進んでいく。
さすがにここまで来れば間違った路線に乗り込んだのだと察しもついたが、かと言って今さらどうすることも出来ない。
下手に途中で降りて、またしても見当違いのバスに乗ってしまうよりは、いっそのことこのまま終点まで行ってしまい、折り返しのバスに乗ったほうが安全なのではないだろうか。
その結果どれほどの時間を無駄にするのかは分からないが、それもまた仕方のないことだろう。
(姉さんにまた呆れられるわね)
しっかり者の姉の顔が浮かんできて、ちょっとだけ彼女を落ち込ませる。
「あなたったら本当に暢気なんだから」
姉にはいつもそんな風に言われているのだ。
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