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猫目堂
A
 「ところで、カイトはどうしたんだい?」
 紳士が尋ねると、ラエルはにっこりと笑みを浮かべ、調理場の扉のほうを振り返った。
 「もういいよ。カイト、出ておいで」
 その言葉とともに店内の明かりが消え、黒髪の店員が手にキャンドルを持って姿を現した。

 「メリークリスマス。みんな、来てくれてありがとう」
 キャンドルの炎が反射して、カイトの琥珀色の瞳がきらきらと光る。
 よく見るとテーブルの上にも何本ものキャンドルが用意されていて、カイトはそのひとつひとつにゆっくりと火を灯していく。
 電気の明かりとは違う、あたたかくてほんわりとした灯火。それがいくつもいくつも重なり合って、店内を優しく照らし出す。
 その幻想的な眺めに、三人の常連客はしばしの間言葉を忘れて見入っていた。

 「どうしてもみんなにプレゼントしたいって、カイトが朝早くから準備していたんだよ」
 そんなラエルの言葉に視線を動かすと、三人の目の前に大きなクリスマスケーキが置かれていた。
 白い生クリームの上に銀色のアラザンと色とりどりの金平糖が散りばめられ、縁取りにさまざまなベリー類がぎっしり並んでいる。そして中央には大きなもみの木と、その周りに可愛らしい砂糖菓子の人形が飾ってあった。
 カイトはその人形を指さしながら、三人ににっこりと笑いかける。
 「この四人の天使はラエルと君たち、そして足元にいる猫が僕なんだよ」
 そう言われて、三人は顔を寄せ合って砂糖菓子の人形を見つめた。

 その人形たちもカイトの手作りらしく、それぞれに似せてつくってある。
 背の高い青い瞳の天使がラエル。肩に小鳥を乗せた小さな天使が少年。手に天国の扉の鍵を持っている天使が紳士。そして、大きなグレーの翼の天使は、おそらく美人を表しているのだろう。
 「ありがとう、カイト。とても嬉しいですよ」
 そう言って、美人は花のような笑顔をカイトにおくる。カイトは照れたように頬を染めながら頷いた。
 紳士も心を込めて礼を言ったが、ひとり少年だけが怒ったように眉をしかめている。
 「どうしたの?もしかして気に入らなかったかな?」
 不安げなカイトの言葉に、
 「いや。そうじゃなくて……」
 少年は慌てて首を振った。すると、
 「小さな天使は天邪鬼ですね。声も出ないほど嬉しいなら、素直にそう言ったらいいのに」
 そう言って、美人がくすくすと笑いを漏らす。

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