猫目堂
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クリスマスの日の夕方。
山奥にある小さなお店『猫目堂』に、この店の常連客が次々に集まってきていた。
「こんな日に呼び出して、いったい何の用?」
常連客の一人である少年が、不満そうに頬を膨らませる。
「すまないね」
金髪の店員――ラエルが苦笑しながら謝る。
少年はますます頬を膨らませると、
「この時季に地上に降りるのって嫌なんだよね。クリスマスだかなんだか知らないけれど、夜中までイルミネーションがギラギラ眩しくて落ち着かないよ。それに騒がしいし寒いし……」
指折り不平を並べ立てはじめた少年に、
「まあ、いいじゃないか、アラエル」
やはり常連客の一人である品の良い初老の紳士が、なだめるように少年に言う。
「だってさ、キリスト生誕の聖なる日…なんて言ってるけど、実際にキリストが生まれた日って全然別の日じゃん。それなのに『クリスマス』だなんて世界的な一大イベントにしちゃってさ。人間って本当に変な生き物だよね」
少年は大げさにため息をつく。
「そうは言っても、私たちにまったく縁がないわけでもないし」
「えー何でだよ。クリスマスなんて、人間が勝手にお祭り騒ぎしてるだけで、僕たちにはちっとも関係ないね」
少年がそう言うと、くすくすという笑い声とともに扉が開いた。
最後にやって来た常連客は、長い黒髪をきりりと結い上げた背の高い美人。
「メリークリスマス、ラエル。メリークリスマス、お二方」
そう言って艶やかに笑う。その美しい笑顔に、少年でさえ一瞬見惚れてしまう。
美人は少年に近づくと、にっこりと笑いかけた。
「街中にあんなにたくさん天使のモチーフが溢れているのに、自分たちには関係ないだなんて、ずいぶん冷たい言い草ですね」
美人に声をかけられて、少年ははっと我に返る。ばつが悪そうに頬を赤らめながら、それを隠そうとしてわざと顔をしかめて見せる。
「何であんたがここにいるんだよ?あんたなんか、尚更クリスマスと関係ないだろ」
噛み付くように少年が言うのだが、美人は少しも気にした様子もなく、のんびりとカウンターに座った。
「ラエル、今日はお招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ、来てくれて嬉しいよ」
少年も負けじと椅子に腰掛け、紳士も困ったように笑いながら二人の間に座った。
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