猫目堂
E
「夢じゃなかったんだ」
希凛は思わずため息を吐き出す。
「あの時の白い羽、こんなところにあったなんて……」
呟きながら、希凛は窓の外に光る一番星を見つめた。
あの青年がいったい何者だったのか、それは今でも分らない。
けれどあれ以来、希凛は何か悲しいことや辛いことがあると、かならず空を見上げて一番星を眺めた。そうすると、一番星はいつも優しく瞬いて、まるで希凛を励ましてくれているように見えた。
『いつでもここにいるよ。ここから君を見守っているよ』
そう囁いているみたいだった。
(もしかしたら――)
ふと浮かんだ考えを、希凛は首を振って頭から追い出す。
はっきりした答えなんか要らない。そんなものは無いほうがいい。
ただ、これからもきっと、希凛は何かあるたびに一番星を見上げるだろう。
そして一番星を見るたびに思い出すだろう。
幼い頃に大好きだった小さな友達と、あの不思議な青年のことを………
「いつもそばにいるよ」
そう言って、希凛は花のようにほほ笑んだ。
《おしまい》
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