猫目堂
D
「くーちゃん!」
希凛は叫んだ。
「くーちゃん!くーちゃんどこ?」
兎はいったいどこへ行ってしまったのだろう。
兎の名前を呼びながら、キョロキョロとあたりを見回している希凛に、黒髪の青年が笑いながら空を指さした。
「くーちゃんならあそこにいるよ」
「え、どこ?」
青年が指さした方向を見ると、そこには一番星が金色に光り輝いていた。
「……くーちゃん?」
一番星はまるで返事をするかのようにピカピカと瞬いた。
『希凛チャン、イツモ此処カラ見守ッテイルカラネ』
遠い空の向こうから、そんな声が聞こえてきた。
「くーちゃん」
精いっぱい背伸びをして、希凛は一番星を見上げた。
手を伸ばせば触れられるような、そんな気さえしてくる。
くーちゃんは遠くに行ってしまったけれど、でも本当はいつでもそばにいる。
希凛はそう思いながら、一番星に語りかけた。
「くーちゃん。こうやってお空を見れば、いつでもくーちゃんに会えるんだよね?」
ピカピカ。チカチカ。
一番星がこたえる。
希凛は嬉しくなって、一番星に向かってにっこりほほ笑んだ。
その後すぐに、心配して迎えに来た母親に連れられて、希凛はその公園を後にした。
「駄目じゃない。こんな遅い時間に、一人で公園で遊んでたら危ないでしょ」
――ひとりじゃないのに。
その言葉を希凛は呑み込んだ。
不思議なことに、母親にはあの黒髪の青年の姿が見えていないようだった。
母親に手を引かれながら、希凛は何度も何度も公園を振り返る。
黒髪の青年は、相変わらず優しいほほ笑みを浮かべながら、一番星を背に、いつまでもその場に佇んでいた。
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