猫目堂
F
カランカラン……
ドアベルが澄んだ音を立てて、木の扉がゆっくりと開かれる。
その瞬間、中から暖かくて新鮮な空気とコーヒーの芳香がゆうらりと漂ってくる。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中から声をかけてきたのは、金髪に青い瞳が印象的な、これまた綺麗な顔をした青年。その花のように清らかな微笑に、嵐と明良は思わず見惚れてしまう。
「さあ、どうぞ」
そんな二人をカウンター席へと案内して、黒髪の青年――カイトはカウンターの中へ入っていく。二人が座ると、神儺と女の子もカウンター席に座った。
「コーヒーでよろしいですか?」
金髪の青年に訊かれて、嵐と明良は無言で頷く。
いったい何と表現したら良いのだろう。この『猫目堂』という店も、店員の二人の青年たちも、どこか浮世離れしていてこの世のものとも思えない。けれど、それは決して嫌な感じではなく、あたたかく、そしてどこか懐かしく、ここにいるととても気分が落ち着くのが分かる。
(そう言えば、最初にこの子を見たときにもそういう感じがしたな)
傍らに座る神儺の横顔をさりげなく見つめながら、嵐は心の中で呟いた。
金髪のラエルが淹れてくれたコーヒーは本当に美味しかった。それに、カイトが出してくれた焼き林檎も、甘さが控えめでとても美味しい。
「なんだかすっかりご馳走になっちゃったな」
少し膨れた腹をさすりながら、明良が満足そうに言う。
嵐もコーヒーをすすりながら、同意の意味をこめて数回頷く。
「いえ、こちらこそ、お二人にはすっかりお世話になってしまいましたから」
「本当にありがとうございます」
ラエルとカイトに次々に綺麗な笑顔を向けられて、二人は何だか照れくさくなってしまう。困ったように笑いながら頭を掻く。
すると、
「お二人に、もう一つだけお願いをしてもいいですか?」
穏やかだが真剣な瞳でそう言われて、二人は何だろうと首を傾げる。
ラエルはにこりとほほ笑むと、その視線を神儺と女の子へ向けた。神儺はすぐに心得顔で頷いて、女の子に言う。
「その四つ葉、お母さんに届けるのでしょう?」
「うん。お母さんと約束したんだもん」
女の子はにっこり笑いながら頷くと、手に持っていた四つ葉を、嵐と明良に差し出した。
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