猫目堂
E
「へえ…」
少女の屈託のない笑顔を見て、明良は思わず感心したような声を出す。
「君、そんな風に笑えるんだね。うん。笑ってるほうが絶対に可愛いよ」
そんな台詞を言われ、ミラー越しにウィンクされて、少女はぱっと頬を染める。そんな反応に、明良はますます気を良くしたように口笛を吹いた。
「だから、口笛吹くのやめろって」
「え、いいじゃん。別に」
またしても嵐と明良の不毛な言い争いが始まり、四人を乗せた車は賑やかに山道を進んで行くのだった。
それからしばらく走ると、白樺林の向こうに仄かな灯りが見えた。
「あそこです」
少女が灯りのほうを指さすと、木々の透き間から小さなレンガ造りの建物が見えてくる。そのまま建物に向かって車を進めると、やがて木の扉と入り口の看板が目に入った。
《喫茶・雑貨 猫目堂》
『あなたの探しているものがきっと見つかります。
どうぞお気軽にお入りください』
(こんな山奥で商売?)
車から降りながら、嵐と明良は思わず顔を見合わせた。
すると、
「遅かったね、神儺(かんな)」
木の扉が開いて、店の中から綺麗な顔をした黒髪の青年が出てきた。
青年は、嵐と明良の姿を見て、琥珀色の瞳を一瞬だけ丸くした。
「お客様かい?珍しいね」
笑いながらそう言う青年に、
「四つ葉をさがしてもらったの」
女の子が嬉しそうに言って、嵐からもらった四つ葉を青年に見せる。それを見て、青年はにっこりほほ笑むと、嵐と明良に向かって丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「あ、いえ…」
「よければ、お礼にコーヒーでもご馳走させてください」
そう青年に言われて、
「そうですね。カイトとラエルの淹れてくれるコーヒーはとても美味しいんですよ」
少女――神儺にも笑顔で促されて、二人は遠慮がちに木の扉をくぐった。
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