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猫目堂
E

 「絵梨香(えりか)、目を覚まして、絵梨香!!」
 自分を呼ぶ声に、少女はぼんやりと視線を動かした。
 大きなガラス窓の前で、父親と母親が手を取り合って泣いている。
 「しっかりしろ、絵梨香!頼むから、目を覚ましてくれ!」
 「がんばって、絵梨香!!」
 二人とも周囲の目も気にせず、泣きながら大声で叫んでいる。今までに一度も見たことがない、父親と母親の取り乱した様子。

 少女はそんな両親の姿を、信じられない思いで見つめていた。
 「お父さんも、お母さんも、いったい何してるの?何をキチガイみたいに怒鳴っているの?」
 そう両親に声をかけたのだが、二人ともまるで聞こえていないようである。少女のほうへは目もくれず、ガラス窓の向こうに向かって、必死に声を絞り出している。
 「絵梨香!」
 「絵梨香、がんばれ!!」
 少女は気味悪そうに両親を見、それからガラス窓の向こう――両親が見ているものを見た。
 そして愕然とした。
 ガラス窓の中は集中治療室。体中にたくさんのチューブを取り付けられ、青ざめた顔で横たわっている少女自身の姿があった。その周りでは、白衣を着たたくさんの人たちが、慌しく行ったり来たりしている。

 「何、これ……?」
 少女は呆然として、その変わり果てた自分の姿を見つめた。それから、慌ててカイトを振り向いた。
 「ねえ、どういうこと?あの私は何?!」
 パニックに陥りそうな少女に、カイトはつとめて落ち着いた口調でこたえる。
 「あれは、君の体。つまり、君自身だよ」
 「だから、何で?――私、どうしてあんなところにいるの?!」
 「…君は、登校途中に交通事故にあって、救急車でこの病院に運ばれたんだよ。お父さんとお母さん、それに君のお友達も、連絡を受けてすぐに駆けつけたんだ」

 カイトの説明に、少女はもう一度両親のほうへ視線を戻した。
 半狂乱の両親の後ろで、クラスメイトの何人かが、祈るように両手を握り締めて泣いている。


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あきゅろす。
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