猫目堂
D
少女はきゅっと唇を噛むと、もう一度、今度ははっきりした声で言った。
「家でも、学校でも、どうせみんな自分のことしか考えてないもん。親も友達も、私のことなんてどうでもいいの。私なんか、このままいなくなったって、誰もちっとも何も感じたりしない」
二人ともやはり何も言わない。
黙っている二人に、少女は無理に笑顔をつくって見せる。
「ごめんなさーい。何だか暗くなっちゃいましたね」
そんな彼女に、カイトはそっと近づくと、優しく彼女の手を握った。
「そんなことないよ。君は、とても大切だよ。ご両親にとっても、お友達にとっても」
一瞬、少女は泣きそうに顔を歪めたが、すばやくカイトを睨みつけると、乱暴にカイトの手を払った。
そして、怒りのこもった声でカイトとラエルに言った。
「分かった風なこと言わないでよ。親や友達がいったい何の役に立つって言うの?みんな自分勝手で、都合のいい時だけ人を利用してるだけじゃない」
「どうしてそう思うの?」
「だって、そうなんだもの。お父さんも、お母さんも……それに、都子(みやこ)だって!!」
「都子さん?君のお友達?」
カイトがおだやかな口調で訊くと、少女は激しく首を振った。
「違う。あんな奴、友達じゃない!私は親友だと思ってたのに、都子は私を裏切ったんだもん。――あんな奴、親友なんかじゃない!」
とうとう泣き出してしまった少女に、カイトはもう一度手を差し伸べた。そして、ゆっくりと少女の髪を撫でた。
少女は驚きながら、それでも今度は、カイトの手を払おうとはしなかった。カイトの手に触れられていると、だんだん気持ちが落ち着いてくるような気がした。不思議に心地よかった。
少女は静かに目を閉じた。
カイトはそんな少女の髪を、あくまでも優しく撫で続けている。
しばらくそうした後、おもむろにカイトが少女に言った。
「君に見せてあげる。いまの君に見えていない、たくさんのものを」
「え?」
カイトの言葉に、少女が驚いて目を開けると、視界が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れた。
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