猫目堂 A お客はゆっくりと店内を見回すと、カウンターの向こうにいる二人の店員――金髪のラエルと黒髪のカイト――に親しげに声をかけた。 「こんにちは」 その人物を見て、二人は少しだけ目を見開き、次にはまるで花が咲くように華やかに笑った。 「神儺(かんな)!」 カイトが慌ててカウンターから出て、嬉しそうにお客に歩み寄る。 神儺と呼ばれた少女は、そんなカイトににこやかな笑顔を向けた。 「お久しぶりです、カイト。それに、ラエルも」 「うん。すごく久しぶりだね。一年ぶりかな?」 「そうですね」 はしゃいだように言うカイトに、神儺は笑って頷いてみせる。 カイトはますます嬉しそうな笑顔を浮かべると、琥珀色の瞳をきらきらと輝かせた。 「どうしたの?今日は仕事かい?」 「いえ、そうではなく――」 神儺が言いかけると、カイトがあっと声を上げた。 「そうか。桜の花だね」 「ええ、そうです」 「今年ももうそんな時季なんだ。早いなぁ」 しみじみ言うカイトに、神儺はくすくすと笑いをもらすと、そのまま視線をラエルへと向けた。 ラエルは静かにほほ笑んで、カウンターの中からじっと神儺を見つめていた。 「あのご夫婦は元気かな?」 「はい、二人とも相変わらずです」 「そうか。それは良かった」 「ええ。…あなたにも会いたがっていますから、たまにはあちらへお戻りになって、天宮殿にも顔を出してください」 神儺の言葉に、ラエルは少しだけ苦笑する。 「こんな頼りない責任者が一人くらい留守でも、別に問題はないだろう。あそこには、まだほかに三人も責任者がいるし、それに君をはじめたくさんの優秀な者たちが揃っているからね」 ラエルの言葉に、神儺は呆れたようにため息をつく。 「まったく風の大天使は口がうまい。私たちはついそれに乗せられてしまいます」 「事実を言っているのだよ」 にこりとラエルが笑うと、神儺もつられたように笑顔を返した。 「……本当にちっとも変わりませんね、大天使ラファエル」 [前へ][次へ] [戻る] |