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猫目堂
黄昏と暁A
 いよいよ自分の最期を悟ったとき、私は妻に内緒で子供たちを呼び寄せた。そして言った。
 「私が死んだ後で、もしもお母さんが何かをしたいと言い出したら、かならず聞いてあげてくれないか。たとえそれがどんなことであっても、お母さんの望みをかなえてやって欲しい。お母さんに生涯で一つだけわがままをさせてあげようじゃないか……」
 それが唯一の私の遺言。
 子供たちは、どうやらその私の遺言を守ってくれたらしい。

 夕焼け色の薔薇に包まれて、妻は幸せそうな顔でこの世を去った。
 そして夕焼け色の薔薇の導きで何十年かぶりに彼と再会し、置き忘れた心をやっと取り戻せたようだ。二人は幸せそうに天に召されていった。
 二人の様子を空の上から眺めながら、私はとても満足だった。
 こんな穏やかな気持ちになれるとは、私自身も想像していなかった。不思議なことだ。
 

 皐月。彼とはまた違う形で、私も君を愛していたよ。
 彼の愛がすべてを包み込む夕焼けだとしたら、私はせめて君の心に差し込むひとすじの朝日になれただろうか。

 皐月、ありがとう。心から―――







《おしまい》




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