猫目堂
baby, baby, babyA
「なんだよ。これから子供を見に行くから、二人のことも誘おうと思って来たのに。そんなんなら僕一人で行くことにするよ」
頬を膨らませるアラエルを、カイトが慌てて宥める。
「いや、アラエル、ぜひ一緒に行きたいな。さぞかし可愛いんだろうね、その、――赤ちゃん」
すると途端にアラエルの機嫌がなおる。
「うん、そりゃもちろん可愛いよ。羽は僕にそっくりなんだって。なんだか照れちゃうよね」
「あーうん、そうだね」
答えるカイトの琥珀色の瞳が、助けを求めるようにラエルに縋りつく。ラエルはニ、三度咳払いをすると、改めてアラエルに尋ねた。
「アラエル、ひとつ確認してもいいかな?」
「なに?」
「我々天使に『遺伝子』というものが存在しないことは君も知っているね?」
いきなりそんなことを言い出すラエルに、アラエルは訳が分からずにきょとんとする。そして、
「そんなこと知ってるよ。でも、それが何の関係があるの?」
「いや、その……」
アラエルにあっさりと切り返されて、ラエルは思わず口ごもってしまう。そんなラエルに、アラエルはさらに訊いた。
「さっきから変だよ、ラエル?やっぱりラエルは雛には興味ないんだね」
「は――?」
「いいよ、もう。カイト、二人であいつの子供を見せてもらいに行こう。昨日、やっと卵から孵ったんだってさ」
無邪気に笑いかけるアラエルに、カイトとラエルはおどおどと視線を泳がせる。二人ともどうやら大きな勘違いをしていたらしい。
「ほら、カイト、行くよ」
「あ、ああ」
戸惑いながらカイトはアラエルに手を引かれていく。
一人残されたラエルは、そんな二人を呆然と見送った。
《おしまい》
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