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猫目堂
C
 どれくらい時間が経っただろう。
 少女はすっかりくつろいで、二人の店員と親しく話していた。

 「じゃあ、ラエルさんとカイトさんは、二人でこのお店を経営してるんですか?」
 「うん、そう」
 「お店始めたの、最近でしょう?」
 「いや、もうけっこう長いですよ」
 「へええー。二人とも若いのに凄いなあ!!」
 感心したように言う少女に、二人はおだやかな微笑をもらす。
 「でもなんか勿体ない。こんな山奥で営業してないで、もっと都会の、人が多い場所でやればいいのに」
 「そうかな」
 「そうですよー。二人ともすごくカッコイイから、女の子のお客さんが毎日いっぱい来ますよ」
 屈託なくそう言う少女に、二人は曖昧にほほ笑むだけだった。

 ミルクティーのおかわりを出しながら、カイトが何気なく少女に尋ねた。
 「時間、大丈夫?」
 「ああ、もう、全然平気です」
 女子高生らしい話し方に、カイトは思わず苦笑する。
 「ご両親とかお友達とか、君のこと心配していないかな?」
 「うーん。だって携帯は圏外だし、連絡しようがないですからね。それに、どっちにしたって、誰も私の心配なんてしてませんよ」
 明るくそう言う少女に、カイトは不思議そうに首を傾げた。
 「きっと、みんな心配しているよ」
 「そんなことないですよー」
 「どうして?」
 「だって、父親は仕事仕事で家のことなんか気にもしないし。母親もうるさくお説教するくせに、自分は友達と食べ歩きばっかしてるし。それに、『友達』なんて言ったって、付き合い薄いですもん」

 けらけらと笑う少女に、カイトは少し悲しそうに琥珀色の瞳を曇らせた。
 「そんなことないよ。みんな、今頃すごく心配してると思うよ」
 カイトが言うと、少女はちょっと嫌そうに顔をしかめる。
 それを見て、カイトがさらに何か言おうとすると、ラエルがやんわりとそれを押しとどめた。
 「…誰も、私のこと必要としている人なんかいない」
 突然、押し殺した声で少女が言った。
 カイトもラエルも、何も言わずに、ただじっと少女を見つめている。


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あきゅろす。
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