猫目堂
E
それから、アラエルは一生懸命に雛鳥の世話をした。
カイトに教わりながら、寝床をつくってやったり、餌を与えたり、糞の始末をしたり、やることは沢山あった。
一日のほとんどを雛の世話におわれて、アラエルは朝早くから夜遅くまでなかなか忙しい毎日を過ごしていた。
「だいぶ大きくなってきたね。そろそろ虫をあげてみたらどうかな?」
カイトが言うと、アラエルはきょとんと目を丸くした。
「虫?そんなものどうするの?」
「小鳥が食べるんだよ」
「ええっ?!」
アラエルは大げさに驚くと、いかにも嫌そうな顔でカイトをじとっと見上げた。
「本当に?鳥が虫なんか食べるの?」
思い切り眉をしかめるアラエルに、カイトはついつい苦笑してしまう。
「うん。自然の中で暮らしている鳥たちは、みんな自分で虫を取って食べているんだよ。葉っぱばかり食べていたら栄養が偏っちゃうだろう?」
「でも、虫なんか食べなくたって……」
「鳥が空を飛ぶのはとても体力の要ることなんだよ、アラエル。鳥は生きるために飛ぶ。そのためには十分な力を蓄えなくちゃならないからね」
カイトの言葉に、アラエルは複雑な表情でうつむく。そのまま何とも言えない眼差しで、自分の手の中に納まっている小鳥を見つめた。
「ほかの生き物を犠牲にしてまで、何で生きなくちゃならないんだろう?」
思わずもらしたアラエルの言葉に、カイトは困ったように首を傾げた。そして、
「それはね」
カイトは優しい口調でアラエルに言った。
「この世に生まれてきたからさ。そして、いつか必ず死ぬから。だから僕たちは一生懸命に生きるんだ」
「生まれてきて、……死ぬから?」
「うん。僕たちは、生きるためにたくさんのものを犠牲にしなくちゃならないこともちゃんと知っている。草や、野菜や果物や、虫や、いろいろな生き物を食べているからね。でも、だからこそがんばって生きるんだ。自分の中で糧となってくれたたくさんの命のために――かれらを無駄にしないためにも、がんばって一生懸命に生きていくんだよ」
「……」
アラエルはこたえなかった。ただじっと何かを考え込んでいるようだった。
そんなアラエルの手の中で、小鳥はときおり小さな羽根をばたつかせながら、まるで歌うように鳴いている。
『生きることは楽しい』
アラエルには、小鳥がそう歌っているように聞こえた。
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