猫目堂 C あれからひと月。 アラエルはなくした翼を必死に探しまわった。 日が昇ってから沈むまでずっと暗い森の中を歩き回り、体中くたくたになり、華奢な手足はすり傷だらけになった。 「痛い」 そう言葉にした途端、生々しい痛みがアラエルを襲った。 「痛い、痛い……」 そう繰り返しながらアラエルは泣いた。手足についた傷よりも、胸の奥が苦しくて痛くてどうしようもなかった。 こんなことは今までに一度だって経験したことがない。 辛い。苦しい。悲しい。悔しい。やるせない。心細い。 ありとあらゆる負の感情がアラエルを襲った。それらに、アラエルは今すぐにも押しつぶされそうだった。 「何でだよ?」 アラエルは呟いた。 「何で僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだよ?!」 アラエルはとうとう癇癪を起こして、その場にしゃがみ込んだ。 いよいよ大声を上げて泣き喚こうとしたその時、 「ピィ…」 小さな小さな声が、嗚咽するアラエルの耳元に届いた。 「何?」 アラエルは慌てて顔を上げると、辺りをキョロキョロと見回した。 すると、また小さな声が聞こえた。 「ピイ…」 「君は誰?いったいどこにいるの?」 「ピイピイーッ」 アラエルの問いに答えるように声が大きくなった。 アラエルは声のする方向を確かめると、四つん這いになってゆっくりと進んだ。腫れぼったくなった目蓋をこすりながら、注意深く視線を走らせる。 「ピィピピーッ」 また声がした。 アラエルが顔を向けると、大きな木の根元――こんもりと積もった落ち葉の中に、黄色いくちばしの先端が見え隠れしているのが見えた。 「見つけた!」 アラエルはやっと声の主を探し出し、その小さな体を両手でこわごわと掬い上げた。 [前へ][次へ] [戻る] |