猫目堂 @ とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。 その扉には、こんな看板が・・・ 『あなたの探しているものがきっと見つかります。 どうぞお気軽にお入りください』 さあ、扉を開けて。 あなたも何か探しものはありませんか? ― 翼あるもの ― 今日もまた、彼は重い足取りで『猫目堂』のドアを開けた。 カランカラン…… 軽やかで澄んだドアベルの音は、彼の沈んだ気持ちをなおさらに空しくさせる。 「いらっしゃいませ」 カウンターの向こうから笑顔でそう言いかけた二人の店員は、そのお客を見て言葉を飲み込んだ。そして、お客の浮かない顔色がうつったようにさっと表情を曇らせた。 「今日も駄目だったよ」 お客はカウンター席に腰かけて、重苦しいため息とともにそう言う。そのまま視線を伏せて、眺めるともなく、すっかり荒れた自分の両手を見つめている。 小さな背中には、片方だけの翼と無残にもぎ取られたもう片方の翼の残骸。 何度見ても痛々しいその様子に、二人の店員はますます顔色を暗くする。 「僕の翼は、いったいどこへ行ってしまったんだろう?」 誰に問うともなく呟かれる言葉に、 「アラエル、あのさ……」 黒髪の店員――カイトが心配そうに声をかけようとするのを、金髪のラエルがそっと押しとどめる。 問いかけるような眼差しを向けるカイトに、ラエルはただ静かに首を振る。 そんな二人の様子にもまったく気がつかず、お客はがっくりと頭を垂れたまま動かない。小さな唇からは、飽くことなく何度も何度も大きなため息が吐き出される。 もうすっかり見慣れてしまった光景。 こんな状態がひと月近く続いていた。 [次へ] [戻る] |