猫目堂
I
「おかげで、彼女が死ぬまでずっと彼女のそばにいることが出来た。無事に彼女を天国へ送り出すことが出来たよ」
「……」
淡々としたアストの言葉に、カイトは複雑な表情をした。それを見て、アストは少し困ったように眉尻を下げると、心配そうな声で尋ねた。
「どうしたんだい、カイト?なぜそんな悲しそうな顔をするの?」
「…だって……」
うつむいたカイトの琥珀色の両目が濡れて金色に輝く。
(メリッサさんが死んでから、アストは長い間ずっと一人で生きてきたんじゃないか……)
ぽつりぽつりとカウンターの上に透明な雫が落ちて行く。
アストはそれを見て一寸驚き、しかしすぐに笑顔をつくると、やさしくカイトの頭を抱き寄せた。
「ありがとう。君は優しい子だね」
「そんなんことないよ……」
カイトは小さな声でつぶやいて、ゆるゆると首を振った。あたたかい涙がアストの胸元を濡らしていく。
「ありがとう」
アストはもう一度カイトをぎゅっと抱き締めると、大輪の花のように笑った。
『幸せでいてね、大好きな人。
ずっとずっと。
あなたの幸福を祈っているわ。
何よりも一番に。
あなたが笑顔でいてくれること。
それが、たったひとつの、私の願い。』
《おしまい》
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