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猫目堂
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 人間としての暮らしは、私にとって新鮮な驚きの連続だった。
 村の連中はみな気のいい人たちばかりで、いきなり村に住みついた私にも親切にしてくれた。もっとも私は、自分のことを「都会から静養に来た貴族」と名乗っていたから、そのことも大きな原因の一つだと思うけれどね。
 とにかく、私は村に住み着き、メリッサのいる修道院にも足しげく通った。
 メリッサもはじめはとても驚いたり呆れたりしていたけれど、時間が経つにつれ、私の存在など気にならなくなったようだ。
 いや。私の勘違いでなければ、むしろメリッサは、私が村にいることを喜んでいるように見えた。
 毎日のように修道院を訪れる私に、神の教えを説教したり、裏庭のハーブ園に連れて行ってくれたり、たまには私に悪魔や魔界について質問してきたりもした。
 彼女は本当によくしてくれた。私は彼女と一緒にいるのがとても楽しかった。

 そうしてメリッサと数年を過ごすうちに、私は彼女がある特殊な力の持ち主であることを知った。
 最初に出会ったときに易々と私の正体を見抜いた彼女だ。たぶん普通の人間ではないだろうとは思っていたが、メリッサの不思議な力は年を重ねるごとに強くなっていくようだった。
 いつしか彼女は、手で触れて念じることで、怪我や病気を治したり、植物の成長を早まらせたり出来るようになっていた。彼女の力は本物だった。
 「昔から不思議なことはあったのよ。でも、こんなに強くなるなんて思ってもいなかったわ」
 メリッサは自分の持つ力に戸惑いを覚え始めていた。
 しかしそんな彼女の心境とは裏腹に、村の内外からメリッサの起こす奇跡を求める人たちがやって来るようになった。みんな藁にもすがる思いでメリッサのもとを訪れるのだった。
 とうとうメリッサは聖女に祭り上げられた。
 『聖マリア・ローザ』。それが、人々がメリッサにつけた洗礼名だった。


 そして、ある日事件が起こった。
 中央の教会から数人の神父たちがやって来て、無理矢理メリッサを連れて行ってしまったのだ。



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