猫目堂
C
私がメリッサと出会ったのは、本当に偶然だった。
私は大きな仕事を一つ終えたところで、ちょうど暇を持て余していた。
そんなことは滅多にないからね。人間の姿になって、しばらくヨーロッパの田舎町でも巡ろうかと思っていたんだ。
旅はとても順調だったよ。
私も長い経験ですっかり人間らしく振る舞えるようになっていたからね。私の正体を見破られるようなことはなかった。
そうやって久しぶりの旅を楽しんで、そろそろそれも終わりに近づこうかという頃、私はあの子と出会ったのだ。
「――あなた、人間じゃないでしょう?」
道ですれ違った瞬間、いきなりそう尋ねてきた少女がいた。
「いったい何を言っているのです、お嬢さん?」
私は余裕たっぷりの笑顔で、その小さな少女を見下ろした。
すると少女は、気丈な態度で私を睨みつけて、さらに言った。
「そんな笑顔で騙されるもんですか。私にはちゃんとわかるのよ。あなた、悪魔でしょう」
どうだまいったか、と言わんばかりに胸を張る少女に、私はついつい悪戯心を抑えられなかった。
「おやおや。悪魔だなんて恐ろしい」
「とぼけないで」
「とぼけてなどいませんよ。いったい私のどこが、そんな恐ろしいものに見えるというのですか?」
「匂いよ」
少女の返答に、私は虚をつかれた。
「え?」
「匂い。――あなた、人間じゃない匂いがするの」
私はポカンとした表情で少女を見つめた。
すると、突然その少女が笑い出した。
「ちょっと、やだ。何、その間の抜けた顔」
「えっ?」
「やだ。あなたって、きっとすごく下っ端の悪魔なのね。正体を見破られたくらいで、そんなに驚いちゃって」
「は?」
「でも、大丈夫、安心して。いくら悪魔だからって、問答無用でいきなり退治したりはしないから」
驚かせてごめんね。
そう言って、けらけらと声を上げて笑う少女を、私は心底呆れて眺めていた。
それがメリッサだった。
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