猫目堂
B
その日、カイトには予感があった。
久しぶりにあの頃の夢を見たのだ。
小さな女の子と小さな黒い猫。二人はとても楽しそうに笑っていた。
夢の中で、女の子がカイトに言った。
「私たち、かならずまた会えるよね。きっと私、あなたを探し出して見せるから」
――うん。ありがとう。
カイトはにっこりと頷き、幸せな気持ちのまま目を覚ました。
「いらっしゃいませ」
カイトとラエルが声をかけて、お客が遠慮がちにカウンターに顔を向けた瞬間、カイトにはすぐに分かった。
――あの子だ。とうとう僕を見つけてくれたんだ。
カイトはとても嬉しかった。けれど同時に悲しかった。
彼女の瞳はどこか悲しげに曇り、心の中に消せない傷があることをうかがわせた。
「どうぞ」
コーヒーを差し出したカイトに、
「ああ、どうも」
そう言う声も、何となく元気がなくてどこか寂しそうだった。
(ごめんね…)
カイトは心の中でそっと呟いた。
あの日、カイトがしてしまったいくつかの小さなミス。それが十年以上たった今でも、こんなにも彼女を苦しめている。そう思うと、カイトはとてもやるせなかった。
なんとかして、もう一度彼女にあの頃のように笑って欲しい。そう思った。
「どうしてこれがここにあるの?」
カウンター脇にあるショーケースを覗き込み、その中にあるものを発見して、驚き立ち上がる彼女。その背後にラエルがゆっくりと近づいていく。
「それに、見覚えがあるんですか?」
「あるも何も…これ、私のだわ。私が昔飼っていた猫の『海斗』につけてあげてた首輪だわ」
貼り付くようにガラス扉の向こうを見つめる彼女に、ラエルは首輪を取り出してそっと差し出す。
ラエルの青い瞳が、ふうわりと優しい光を宿す。
「よく見てください。間違いありませんか?」
「間違いない。だって、ここに…私の字で『かいと』って書いてあるもの。それにうちの電話番号も」
「そうですか…」
ラエルがおだやかな微笑を浮かべ、彼女が不思議そうに振り返る。
その瞬間、カイトは昔のままの小さな黒猫の姿に変身した。
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