猫目堂
@
帰らなくちゃ。
帰らなくちゃ。大好きな君のところへ。
もう少し。あとほんの少し。
あの川の向こうに君がいる。僕を待ってる。
さあ、橋を渡って。もうすぐだ。
もうすぐ君に会える。
―――ドカッ。
「ねえ、今何かひいたんじゃない?」
「えー?どうせ猫か何かだろ?」
「うん。小さくて黒っぽいの…。土手のほうに転がってったよ」
「車道を突っ切るほうが悪いんだよ。ほっとけほっとけ」
「うん。そうだよね」
おかしいな。
どうして僕はこんなところに寝転がっているんだろう?
ああ、目の前に川が見える。
早く向こうに渡らなくちゃ。君が待ってる。
あれ?足が動かない。体が動かない。
きっとこの高い草のせいだね。
ほら、早く動いて、僕の体。
君が待ってる。早く行かなくちゃ。
おや?…なんだか急に暗くなってきたみたい。
ずいぶん早い日暮れだなあ。
それならなおさら早く帰らなくちゃね。
君を心配させないように。
待ってて。
もうすぐ帰るよ。
大好きな大好きな君のところへ………
【 猫 目 堂 Final 】
― Amazing Grace ―
これが、きっと、最後の物語―――
[次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!