猫目堂 @ とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。 その扉には、こんな看板が・・・ 《喫茶・雑貨 猫目堂》 『あなたの探しているものがきっと見つかります。 どうぞお気軽にお入りください』 さあ、扉を開けて。 あなたも何か探しものはありませんか? ― さ よ な ら ― 「いらっしゃいませ」 ドアベルが高く澄んだ音を鳴らし、入り口の木の扉がゆっくりと開かれる。 それと同時に、カウンターの中にいる綺麗な顔をした若い男が二人、笑顔でお客を迎えた。 コーヒーの良い香りと新鮮な空気。 アンティークっぽい家具や小物に囲まれた静かな空間は、どこか懐かしい感じがする。 「ご注文は何にしますか?」 背の高い金髪の店員が親しげに声をかけてくる。 お客はにこりとほほ笑むと、 「温かいレモネードをお願いできますか?」 柔らかな声で言った。 二人の店員は揃って笑顔で頷くと、黒髪のほうが厨房へと消えていく。 「ここはもう長いんですか?」 カウンターに残った金髪の店員に、お客は気さくに話しかける。 店員は相変わらず笑顔を浮かべながら愛想よく答える。 「そうですね。かれこれ十年くらいになりますね」 「へえ…そんなに長く」 お客は少し驚いたように目を見張った。目の前の店員も、先ほどの黒髪の店員も、どう見ても二十代半ばにしか見えない。 「じゃあその間にずいぶんいろいろな人たちがこちらに見えたでしょう?」 「ええ、まあ、そうですね」 店員が曖昧にこたえると、お客は店内をぐるっと見渡した。そしてしみじみとこんなことを言った。 「ここは不思議な場所ですね。はじめて来たのに、とても懐かしい感じがする。雰囲気とか、匂いとか……ずっと昔に出会っているような気がするんです」 「そうですか」 「はい。何て言うか、まるでここだけ時間が止まっているような、そんな不思議な感じです」 お客の言葉に、金髪の店員は清らかな微笑を浮かべた。 お客もつられたように笑うと、ちょうどそこへ黒髪の店員がレモネードを運んできた。 [次へ] [戻る] |