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猫目堂
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 とある山奥の小さなバス停の近くに、小さなお店があります。
 その扉には、こんな看板が・・・


《喫茶・雑貨 猫目堂》

『あなたの探しているものがきっと見つかります。
どうぞお気軽にお入りください』



 さあ、扉を開けて。
 あなたも何か探しものはありませんか?



【猫 目 堂 3rd】
― 花  束 /bouquet ―




 いつものようにドアベルが軽やかな音を鳴らし、『猫目堂』の扉が開く。
 「いらっしゃいませ」
 綺麗な顔をした若い男が二人、カウンターから揃って笑顔を投げかける。
 店内にはほかにもう二人。品の良い初老の紳士とインテリっぽい黒髪の美人。
 どちらもこの店の常連客だ。
 「バスを待つ間お邪魔させてもらってもいいかな?」
 にこりともせずにそういうお客に、二人の店員――金髪のラエルと黒髪のカイトは、にっこりと笑顔で頷く。
 「どうぞ。よろしければカウンターへ」
 「ああ。ありがとう」
 お客は帽子を取りながらカウンター席へ腰掛けた。
 先客の紳士と美人に軽く会釈してみせる。
 年齢は五十歳ぐらいだろうか。背筋をまっすぐに伸ばし、眉間に皺を寄せているが、別に不機嫌なわけではないらしい。
 いかめしい顔とおなじくらいいかめしい声も、別段特別なものではなく、彼にとってはごく当たり前のものだった。
 「ご注文は何になさいますか?」
 ラエルが訊くと、じろりとした視線をラエルとカイト、それに厨房へ続く扉へと向けてから、
 「何がつくれるのかね?」
 「いちおうメニューがありますが、ご要望のものがあればおつくりしますよ」
 ラエルが愛想よく答えると、男は相変わらずのしかめ面で、
 「では一番得意なものを」
 ぼそりとつぶやく。
 「かしこまりました」
 ラエルはにっこりと笑うと、カイトのほうを振り向いた。カイトも笑顔で頷くと、無言で厨房へと消えていった。


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あきゅろす。
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