猫目堂
D
オ願イダカラ、ソンナ顔シナイデ。
僕ハズット君ニ会イタカッタヨ。
君ノ笑ッタ顔ヲ見セテ。
そう少女に伝えたいのに。少女に笑って欲しいのに。
もどかしさに、ティオはますます鼻を鳴らした。
すると、
「大丈夫だよ」
優しい声とともに、何かがふわりとティオの額に触れた。
ティオが驚いて顔を上げると、黒い髪の青年がにっこりとティオにほほ笑みかけていた。不思議そうにその青年を見つめていると、青年は一本の白い羽をティオの首輪に差し込んだ。
「さあ、ティオ。話してごらん」
青年にそう言われて、ティオはおそるおそる口を開いた。
「お…願い、…泣かないで」
ティオの口から漏れた言葉に、少女は驚いてティオを見つめた。
ティオはじっと少女を見つめると、少女の頬にぐいぐいと額をこすりつけた。
「君と会えて、僕は本当に嬉しい。ずっと君に会いたかった、ずっと君を待っていた」
「ティオ…」
少女は痩せこけたティオの体を、せいいっぱいの愛しさを込めて撫で続ける。
ティオは尻尾を振りながら、気持ち良さそうに目を閉じた。
「君がいなくなってしまってから、ずっと寂しかったよ。やっと戻ってきてくれたんだね」
「ティオ…」
少女はティオの首に抱きついて、ぱさぱさになった白い毛並みに顔を埋めた。
「ティオ、よく聞いてね。…私はティオにお別れを言いに来たんだよ」
「お別れ?どうして?」
「ティオも分かってるでしょ?私はもう死んだの。だから天国へ行かなくちゃならないの」
その少女の言葉を聞いた途端、
「じゃあ、僕も君と一緒に行く」
迷うことなくティオはそう言った。
まるではじめからそう決めていたように……。
少女は悲しく首を振った。
「そんなの駄目だよ」
ティオは少女の顔を覗き込むと、涙に濡れた瞳をまっすぐに見つめた。
「どうして駄目なの?僕、死ぬのなんて怖くないよ」
「ティオ。ティオは私が死んで、ご飯も食べられないくらい悲しかったんでしょ?私も同じだよ。ティオが死んだらすごく悲しいよ」
「でも僕はもうこんな年寄り犬なんだよ。どうせあと何年かしたら死ぬんだ。だから今死んだって同じことなんだよ」
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