猫目堂 C 白い壁の小さな一軒家。 その庭先に古びた犬小屋があり、年老いた犬が一匹寝そべっている。 家の中から女性が出てきて犬に近寄る。声をかけても、犬はぴくりとも動かない。 そばにある水入れにも餌入れにも手をつけた様子はなく、女性は何度も大きなため息をついた。 「もういいかげんになさい。このままじゃあなたまでどうにかなってしまうわ」 しかし犬からは何の反応もない。まるで死んだようにその場にうずくまっている。 「お水とご飯かえておくから、少しでも食べてちょうだいね」 女性はそう言い残してその場を立ち去る。 犬はやはり動かない。 水も餌も何もかも、まるで彼の目には映っていないようだった。ただぼんやりと自分の足元を見つめている。 しかし――― 「ティオ」 かすかな声に、犬はびくっと反応した。 顔を上げて、耳をぴくぴくと動かす。 すると、 「ティオ」 もう一度、懐かしい声が犬の名前を呼んだ。 犬は慌てて起き上がると、声の聞こえたほうをめがけて走り出した。 「ワンワン。ワンワン」 犬は夢中で走っていた。 走りながら尻尾を振り、飼い主を呼び続ける。 するとそれに答えるように、 「ティオ」 さきほどよりはっきりと声が聞こえてきた。 犬は迷うことなく走り続け、その場所へとたどり着く。 黄色いタンポポに囲まれて、大好きな少女が笑っていた。 「ティオ!!」 少女はティオの体をぎゅっと抱き締めた。 ティオは力の限り尻尾を振り、少女の顔中をぺろぺろと舐める。嬉しくて嬉しくてどうしたらいいか分からない…そんな感じだった。 そんなティオの背中を両手で撫でながら、 「お前、ずいぶん痩せたね……」 そう言って悲しそうに顔を曇らせる。 大好きな少女にそんな顔をさせてしまい、ティオはものすごく悲しくなった。 耳と尻尾を下げて、キューンキューンと鼻を鳴らす。 [前へ][次へ] [戻る] |