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猫目堂
B

 少女は病院のベッドの上で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
 毎日毎日、目に入るのは白い壁と白い天井と、そしてこの小さな窓から見える外の景色だけ。
 「ちょっとの間入院するだけ。風邪みたいなものだから」
 お医者さんと母親はそう言っていたのに、入院してからもう2か月が過ぎていた。
 いったいいつになったら退院できるんだろう…。
 母親が毎日つきっきりでいてくれるし、父親も会社が終わるとかならず病院へ寄ってくれる。学校の友達だってしょっちゅうお見舞いに来てくれて、少女のいる病室はいつも賑やかだ。寂しさなんて感じないはずだった。
 けれど少女は、とてもとても寂しかった。誰よりもティオに会いたかった。
 「ねえ、ティオをここに連れて来てよ」
 母親に頼んでみたが、病院に動物を連れてくるわけにはいかないと言われた。
 それでもティオに会いたいと少女が駄々をこねると、母親はすっかり困り果てて医者に相談した。そして特別に病院の中庭でなら犬と少女を会わせても良いという許可をもらった。
 少女はそれを聞いてたいそう喜び、久しぶりに心からの笑顔を浮かべた。

 「ティオーー」
 車椅子に乗った少女が呼ぶと、ティオは少女めがけて一目散に駆けてきた。嬉しくてどうしようもないというように、狂ったように激しく尻尾を振り、少女の手や顔を舐めまわした。
 「ティオ、ティオ、くすぐったいよ」
 少女がキャッキャッとはしゃいだ声を上げる。
 少女もティオも嬉しくてたまらなかった。
 「ティオ、退院したら真っ先にタンポポ畑に行こうね。もうすぐ春だもん、黄色いタンポポがいっぱい咲くよ。それまでには絶対に退院するから。またティオと一緒にお散歩できるように、私がんばるからね」
 「ワン」
 少女はそう言って、ティオの体をぎゅっと抱き締めた。



 コトリ。
 カップを置く小さな音に、ラエルとカイトは静かに顔を上げた。
 そんな二人をまっすぐに見つめながら、
 「ティオはずっと私を待っているんです」
 そう少女は言う。
 「私が帰ってくるのを、そして一緒にタンポポ畑に行くのを、ティオはずっとずっと待ち続けてくれているんです」
 少女の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
 その涙を、カイトが指先で優しくすくい上げた。
 少し驚いたように少女がカイトを見上げると、カイトはやわらかくほほ笑んだ。


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あきゅろす。
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