12
「……あぢぃ……」
 翌朝、蓮は起きた途端に無意識下で寝苦しそうに呟いた。
 7月の朝、男二人を受け入れる広さは備わっていないベッドでぴったりとくっついていれば、朝から気分が良いはずもない。
 カーテンの隙間から漏れた光で朝だと悟り、壁ギリギリにまで寄っていた蓮が、枕元の時計に目を向ければ時刻は6時12分。8時に起きれば間に合う蓮にしてみれば、二度寝をするには相応しい時間だ。
 もう一眠りしようと再び目を閉じるが、耳元で聞こえる寝息、狭いベッド、二人で一つの枕とタオルケット。
「上じゃねえのかよ……せめーっつの……」
 昨夜片付けた筈の上段ベッドを思い出し、蓮は眉を顰めながら自分の状況を嘆いた。狭いベッドの壁際にいる蓮に、ほぼピッタリとくっついている健悟。
 蓮のすぐ目の前15cm程の場所に、目を伏せていても造型物のような健悟の顔がある。男の癖につるつるな肌、綺麗に整えられた唇、長い睫毛。芸能人は整形が多いと聞くが、健悟は天然なのだろうか。朝のまどろみに任せればどうでもいい考えが頭を通り過ぎる。
 仕事で忙しくなるだろう健悟を起こして離れろというのも気が引けたが、それにしても暑くて眠れなかった。
 既に活発に鳴いている蝉の声も、気にし始めたらキリがなく、余計な暑さだけが増長し続ける。目覚めたばかりで起き上がることは非常に最高にこの上なく怠かったが、暑いよりはマシだと、蓮はふらふらと起き上がる。
 動いて気付いた異様に爽やかな香りに、健悟がずっと自分の近くで眠っていた事を実感した。
 匂いって移るんだな、と寝ぼけた頭で考えながら、隣に眠る健悟を越えて、柔らかく温かすぎるベッドから、硬く冷たいフローリングの床へと移動した。
「あー……」
 べたっと床に俯せになれば、張り付いた場所からだんだんと冷たさが浸透して行く。
 剥き出しだった腕と足は勿論、それに加えて自分でTシャツの腹の部分を捲くれば、このまま風邪をひいても本望だと言い切れるくらいには涼しく、漸く瞼を閉じることが出来た。
 開いていた窓からは生温いながらも風が入って来て、あと2じかん、と思いながら、薄れ行く意識の中で、蓮は床に大の字になり再び寝息をたて始めた。



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あきゅろす。
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