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ケダモノダモノ

艶やかな革張りの椅子に腰を据えたザンザスは、優越感を持って足を組む。
忌々しげに突き刺さる綱吉の視線を、その赤い目で跳ね返しながら、ふいに右肘を緩やかに曲げて掌をシャンデリアの光に照らす。
その長い指へと細巻き煙草を差し入れられ、乾いた唇に挟めばごく自然にライターの火が灯った。

「スクアーロ、反省してって僕は言ってるんだ」

軽い金属音を立てたライターを懐へ仕舞うスクアーロへ、綱吉はより一層に険を立てた顔つきで責めた。
どこ吹く風か。
スクアーロは教師の叱責を聞き流す生意気な生徒のように、ぷいと顔を横に背けた。

「ザンザス、君がスクアーロを甘やかすから」
「いつ俺が甘やかした」
「今だよ、今!今、この時、この瞬間!」

叫んだ綱吉を、ふん、と鼻先だけであしらいザンザスは腕時計に視線を落とした。そのまま立ち上がれば渦中のスクアーロも一歩身を引いてザンザスの肩にコートを掛けた。

「チャオ、綱吉。お前に割り当てられた仕事の準備がある」
「待てよザンザス!……っ、スクアーロも!!」
「獄寺の甘ったれと一緒に寝てたほうがいいんじゃねぇかぁ?過保護なドンだぜぇ」
「お前がそうしたんだろ!?」
「…………俺は箔をつけてやっただけだぁ。チャオ、綱吉」





時は遡り、そろそろ今日が昨日と呼ばれるようになる頃のこと。
何時ものように壁の花に徹していた獄寺は、談笑の輪にいた山本にふと視線を向けていた。
東洋人の顔は混血の自分と比べても、数段幼い。そのせいか山本は華やかなパーティーに適していた。
人懐っこい笑顔も、どこか曖昧な、困ったように首を傾げる仕草も。どれも人をあまり不快にさせることがない。
自分よりも数段社交場に向いている。そう思うからこそ、獄寺は壁の花に徹していた。

「………どうした」

その山本が、少し困ったような顔で自分に近付いてくる。獄寺は壁から背を離した。

「や、なんか。ちょっと口の中が痺れてんだ」
「………痺れ?」

山本の視線が、助けを求めるように部屋をさ迷う。獄寺と同じように壁の花になっていたスクアーロが、その視線に気付くのは獄寺よりも更に早かった。

「スクアーロ、なんか、」
「山本、お前遊ばれてんだぁ」
「え?」
「毒が入ってる。気づかなかったのかぁ?それ、飲みすぎると内臓が溶けるぞぉ」
「え?え?」
「てめっ、早く言いやがれ…っ!」

呆れたように片眉を上げたスクアーロに、思わず大声を出し掛けた。
しかしそれより先に、足早に会場から出ていく女の姿に獄寺は気付く。

「チッ…!」

山本をスクアーロに預け、獄寺はその女を追うように会場を抜けた。
長い廊下では追いきれず、咄嗟に玄関上のバルコニーに飛び出した。

ふいに、女が振り返る。
妖艶な笑みを浮かべて獄寺を挑発するように長いブロンドを掻き上げた女が、上層部の愛人をしていた女だと気付いた時には、女は優美に歩き出したところ。

「待て……っ!」

咄嗟に獄寺は懐から拳銃を抜く。
裏切り者を逃がしてはならない、しかしそう思っても、照準を合わせられても引き金を引くことを躊躇った。
本当にいいのか。引き金を引くことで、上層部との軋轢が再発したとき、自分たちで押さえることが出来るのか。

数秒、迷った。

背中から抱き締められる。

獄寺が視線を横に向けた。

瞳に映る。

残酷な微笑。

「人はなぁ、こうやって殺すんだぁ」

手が重なるまま、獄寺はスクアーロに導かれるままに、引き金を引いた。










「筆下ろしでもしてやった気分か?」
「まさか」

低くスクアーロは笑う。
車に乗り込むために、スクアーロが開けたドアをザンザスは制した。

「躾が出来てねぇと、煩く言われるのは俺だ」
「人も殺せねぇ、甘ったれに手解きしてやっただけじゃねぇか」
「悪い男だな」
「…………好きだろぉ、そういう男がよぉ」

唇が合わさる。
苦い、と煙草の風味に文句をつけたスクアーロの髪を指に絡め、ザンザスは更に唇を寄せた。

「好きだぜ、悪いお前が」




(どうせ地獄に落ちる運命なのだから)


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